ゆびきりげんまん

一昨日は毎月定例の石木ダム勉強会でした。
今月のお題は『覚書』。

10月21日の福岡高裁の判決書で改めて注目を集めた石木ダムに関係する覚書。この問題について、あらためて皆さんと情報を共有し、意見交換しました。

今から49年前に、川棚町の3つの郷の住民が、自治体トップと交わした2つの覚書。

このように、関係者の署名・捺印もしっかり揃っています。
いったいどんなことが書かれていたのでしょう。

1.住民と知事との覚書。
注目すべきは第4条。
「乙が調査の結果,建設の必要が生じたときは,改めて甲と協議の上,書面による同意を受けた後着手するものとする」

つまり、「石木ダム建設の必要が生じたときは、県は3郷の住民と協議し、書面による同意を得た上でないと建設には着手しません」と約束しています。

2.住民と町長との覚書。
注目すべきは第1条。
「石木川の河川調査に関して甲と長崎県知事との間に取り交わされた覚書はあくまで甲(地元民)の理解の上に作業が進められることを基調にするものであるから,若し長崎県が覚書の精神に反し独断専行或は強制執行等の行為に出た場合は乙は総力を挙げて反対し作業を阻止する行動をとることを約束する」

つまり、「県が覚書に反し、独断的or強制的に事業を進めようとした場合は、川棚町長は全力で反対し県の作業を阻止する」と約束しています。

ところが、実際はどうなったか。
県は、覚書の2年後(1974年)には石木ダム事業計画を国に提出し、
10年後(1982年)には機動隊を入れて強制測量を実施し、
37年後(2009年)には強制収用に道を開く事業認定申請を行い、
47年後(2019年)には住民の全ての土地を強制収用し、
いま事業は粛々と、強制的に進められています。

この現状について県は、「覚書?あれは紳士協定であって、法的拘束力はありません」と居直ってきましたし、なぜかそれが司法の場でもまかり通ってきたのです。

しかし、先々月の工事差止訴訟控訴審判決において、福岡高裁の裁判官は3郷は長崎県知事を信頼し、川棚町長の協力を確信して、本件覚書に調印することを約束した・・・そうであるにもかかわらず、未だ、本件事業につき地元関係者の理解が得られるには至っていない・・・県を始めとする本件事業の起業者には、今後も、本件事業につき地元関係者の理解を得るよう努力することが求められると、起業者へ苦言を呈しました。

やっと、私たちの主張が少しだけ理解してもらえた!この当たり前のこと(約束は守る!)が通用しない世の中は、やはりおかしい。

この問題を多くの県民と共有するためには、私たち自身がもっとよく勉強しなければ・・との思いが湧いてきました。

そこで、覚書とは何ぞや?紳士協定や契約書とはどう違うのか?調べてみました。

ウィキペディア(Wikipedia)によると、
紳士協定=いわゆる不文律(暗黙の了解)の1つで、国家や団体、および個人間における取り決めのうち、公式の手続きや文書によらず、互いに相手が約束を履行することを信用して結ぶもの。

契約情報メディア「契約ウォッチ」によると、
https://keiyaku-watch.jp/media/kisochishiki/oboegaki
契約書=意思表示の合致(=合意内容)を書面にして証明するもの。
覚書=忘れないように書き留めておくこと、その文書、メモ、備忘録など。
しかし、タイトルに「覚書」とあっても、当該書面の内容が「当事者同士の意思表示の合致」を証明するものであれば、契約書であることには変わりません。法的拘束力は通常の契約書と変わらないことには注意が必要です。
と書かれていました。

石木ダム覚書は、
① 甲・乙という2つの立場が明記され
② 約束事が条文化され、
③ 日付が記され、
④ 署名・捺印がある
ので、内容的にはこれはもうりっぱな契約書の一種だと言えるでしょう。
つまり、法的拘束力はあるということです。

実は、この覚書について、日本弁護士連合会(日弁連)による貴重な記述があります。
これは2013年12月長崎県に提出された「石木ダム事業の中止を求める意見書」の中の一部分ですが、その内容は傾聴に値するもので、ぜひ多くの人に読んで頂きたいと願っています。https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2013/opinion_131219_4.pdf

以下、覚書の効力の部分を抜粋し転載します。

② 覚書の効力

ア 長崎県は,本件覚書の一部(第4条)について,紳士協定であると説
明しているが,本件覚書は,地元3部落の住民を代表する各総代を甲と
し,長崎県知事を乙として,甲と乙との対立する意思表示の合致したも
のであり,契約であることは明らかである。また,前記①の本件覚書作
成の経緯及びその記載内容の具体性からして,本件覚書は,地元3部落
の代表と長崎県の代表機関である知事が,地元3部落と長崎県との間で,
法的に拘束力を持たせる意思をもって締結した契約と見るべきである。
本件覚書による契約成立により,長崎県は,調査等開始,地質調査の公
表説明の時期の事前明示をすること,一定の場合に中間調査概況の公表説
明をすること,ダム建設着手のためには地元住民らと協議しその書面によ
る同意を受けることという債務を負担した。

イ 覚書第4条では,「ダム建設の必要が生じたときは,改めて,甲と協議
の上,書面による同意を受け」た後着手されることとされている。
本件覚書の署名者は,長崎県の代表者である知事と「川原郷」「岩屋郷」
「木場郷」の各総代である。「川原郷」「岩屋郷」「木場郷」は,石木ダム
水没地域にある地元3部落の通称である(川棚町においてはこれを行政地
区としている。)。地元部落では,全ての住民がダム建設に反対していたこ
とから,地元部落住民全員が署名する代わりに,地元各部落の代表である
総代がそれぞれ署名をしたのである。
したがって,長崎県が石木ダム建設に着手するには,地元3部落の住民
全員の書面による同意を得なければならない。

しかし,現在,川原郷には13世帯が居住しており,その全住民が石木
ダム事業に反対して同意しておらず,長崎県は,川原郷住民全員の書面の
同意,少なくとも現在居住する住民全員を代表し全員に代わって意思表示
をする総代の書面の同意を得ていない。岩屋郷,木場郷の水没区域の住民
は地元から転出しているが,このことは覚書第4条の効力を失わせない。
ウ 以上のとおり,長崎県が川原郷住民の書面による同意なしに石木ダム
計画を進めることは本件覚書に違反する契約違反行為である。

転載は以上です。
このように、長崎県による県民への契約違反は半世紀にわたって続いており、その上で事業を無理やり強行しています。このような公共事業の進め方や県政のあり方は、石木ダム関係者だけでなく、県民全体を愚弄するものではないでしょうか。

この事実を多くの県民に知ってほしい、考えてほしい。

そして知事が一日も早く川原住民との約束を果たすよう声をあげてほしい。

それは覚書に書かれているように、ダムの必要性について住民と協議し、書面による同意を受けてほしいということ。
それが実現するまでは工事を進めないでほしいということです。(*_*)