川原郷は「権利能力無き社団」

石木ダム工事差止訴訟 第4回口頭弁論

今日の裁判は午後4時から。少し冷えてきましたが、長崎地裁佐世保支部前にはたくさんの方が集まって門前集会が開かれました。



今回は、前回の裁判で被告側(長崎県と佐世保市)から出された疑問反論に対し、原告側(私たち)弁護団が以下の2点について回答を示しました。

(被告)人格権は差止の根拠となり得るのか?少なくとも本件に関してはなり得ない

(原告)過去の裁判例に基づき、人格権が差止の根拠となり得ることを示し、また、この裁判においても人格権が差止の根拠となるだけの具体性と排他性を持っていることを主張

(被告)覚書に関して、覚書の当事者(総代)でない人(当時の郷の住民各人や、後に転入してきたり生まれたりして住民になった人)にまでその効力が及ぶのか?その根拠を示してほしい

(原告)川原郷は、いわゆる「権利能力なき社団」(法人格を持たない団体)に該当する。なぜなら郷には代表者としての総代がいて、団体としての組織を備えている。転出者や転入者がいても、川原郷自体は変わらず存続してきたから。「権利能力なき社団」であれば、郷の代表者=総代が県と交わした覚書の効力は他の住民やその後の住民にも及ぶこととなる

覚書とはこちらのこと。石木ダム・覚書

「乙(長崎県)が調査の結果、建設の必要が生じたときは、改めて甲(3つの郷)と協議の上、書面による同意を受けた後着手するものとする」と書かれています。

つまり、これは、まだ建設するって決めたわけじゃない、建設する必要があるかどうか判断するために調査する、調査した結果、建設すべきとなった場合は、ちゃんと皆さんと話し合って、合意ができたら文書を作成して、きちんと手続きを踏みます、それをしないで勝手に工事を始めるなんてことはしないから安心してください、という意味ですよね。

だから、それなら調査してもいいですよ、ということで覚書を交わしたわけですが、県はこの約束を反故にして、勝手にダム事業に着手したので、それはおかしい、ルール違反だと川原郷の住民みんなが声を上げているのです。

しかし、県側は当時の知事が覚書を交わした相手は当時の総代であって、その他の人は関係ないと言わんばかり。そんなことがまかり通れば、企業でも、自治体でも、約束事なんて意味をなさないことになってしまうのでは?

 

次回は2月19日の予定でしたが、それは取消し、4月23日(月)14:00に変更となりました。
理由は、もう1つの裁判(事業認定取消訴訟)が3月20日に結審するので、それに向けて提出する最終書面の内容をこちらの裁判にコンバート(変換)するためです。

どちらも石木ダムの必要性が重要な争点なので、取消訴訟の方でその集大成がまとめられるのですから、それを活かすことは当然です。

報告集会では、そのような説明の後、1月9日首都大学東京でおこなわれた取消訴訟の証人尋問について、高橋弁護士から詳しい報告がありました。



今回小泉明特任教授に尋問をおこなったのは、いわゆる出張尋問で、非公開。
こちらからは弁護団6名と原告6名(地権者4名+佐世保市民1名+神奈川県民1名)が参加した。

前回の田中尋問のときは90点以上の出来だったと思うが、今回は80点くらい。
なぜなら、田中さん(元佐世保市水道局事業部長)は役人で、上から命じられてやってきたので自分の中に矛盾がある。そこを突かれるとシドロモドロになる。
しかし小泉さんは学者なので、自分の分かることは自信を持ってきちんと述べ、分からないことは言わない。逃げるのが上手だった。

尋問の中で分かったことは、<小泉さんは佐世保市の水需要予測にお墨付きを与えたわけではない、需要予測の方法論について認めただけで、数字の正当性についてまでは見ていない>ということ。

その典型がSSKの工場用水だが、「予測の前提となっている修繕船事業が2倍になるとか、予測値はSSKから示したのではなく佐世保市水道局が推計したとか、そういうことは関知していない」と述べた。

また、小泉さんはこうも言った。
「少々過大に予測するのは当たり前。余裕が無ければ、水が足りなくて産業が停滞し町が発展しない」

そこで私が「佐世保市の発展のために川棚町民が犠牲になるのは当然なのか」と問うと、はじめは言い訳(私は水需要予測の話をしているのであり、ダムの話をしているのではない等)をしていたが、最後には「それは問題かもしれません」と言った。

そのようなやり取りの中で、<小泉教授の意見書とはその程度のものだった。大して価値のあるものではなかった>ということは裁判官に伝わったのではないか。

高橋弁護士の丁寧な説明に、傍聴できなかった私たちもよく理解できました。
次回3月20日の最終弁論を大いに期待したいですね。

最後にこうばる住民のお二人から挨拶とアピールがありました。

岩下和雄さん:私たちは毎日抗議行動をおこなっているが、県職員も動員を含め20数名でやってくるので少しずつ進んでいる。2つの裁判を通じて工事が止まることを願いながら、今後も抗議を続けていきます。ご協力よろしくお願いします。

石丸穂澄さん:28日(日)13:30から「ほたるの川のまもりびと」試写会が川棚公会堂であります。1000人入る会場です。ぜひ観に来てください。周りの方にも知らせてください!

この日は平戸文化センターでも試写会があります。(11時と14時の2回)平戸近辺の方はそちらへ、川棚近辺や南部の方は川棚へ、ぜひ足を運んでくださいね~

映画をきっかけに、いしきをかえよう!

1月20日、アルカスSASEBOのイベントホールは満員御礼!『ほたるの川のまもりびと』の試写会は大成功でした。



上映後のトークショーもとても中身の濃い素敵な時間でした。
もっと多くの人に聞いてほしかったな~ということで、そのポイントをざっくりまとめてご紹介します。

司会はパタゴニア日本支社長の辻井隆行さん。ゲストはこの映画の監督の山田英治さんとライフ企画社会長(ライフさせぼ創刊者)の小川照郷さんでした。

辻井:まずは率直なご感想を…

小川:僕は山が好きで、一年のうちの150日くらいは山に登る。見て触れて自然を十分知っていたつもりだったが、その中で暮らすということがどんなに素晴らしいものであるか、あらためて感じた。



辻井:特に印象に残るシーンは?

小川:最後の歌のシーンに感動した。聞くところによると、あの歌はこの映画のために作られたのではなく、その前からあったらしい。あまりにもこの映画のテーマにピッタリでびっくりした。

辻井:監督はなんでこんな映画を撮ろうと?



山田:僕は広告会社で原発のCMを創っていた、原発はエコでいいものだと思っていた。祖父母のいるふるさとの福島で原発事故がおきた。自分の仕事に疑問が湧いてきて、様々なCMを降り、震災復興に力を入れているNPOなどのCMを作るようになった。
そんなときに知り合いから石木ダムの話を聞き、現地を訪ねた。反対運動をしている人たちということで、ある種の先入観を持っていたが、会う人会う人みな自分のじいちゃんばあちゃんのような感じで面食らった。しかも皆さん元気で楽しそうで、それぞれがチャーミングだった。
こんな田舎の魅力を都会の人に伝えたい。と同時に、ここが失われるかもしれない、それってどういうことなのか、考えてほしい。日常のドキュメンタリーを見せることによって考えるきっかけになるかもしれない、そう思った。

辻井:「ライフさせぼ」が目指しているものは何?月刊誌『99』の中で、石木ダム問題について僕との対談を提案して下さったのはなぜ?



小川:ライフは日本で最初のフリーペーパー。僕は佐世保で生まれ育ち、十数年東京で暮らし、佐世保に戻ってきた時、自分が佐世保について何も知らなかったことを痛感した。そしてそれは僕だけではなかった。地域の文化や情報を伝える必要性を感じ、タウン情報誌を創刊した。
はじめは政治には触れたくないとの思いもあり、石木ダム問題を紙面にするのは良いことかどうか迷っていた。しかし、皆が変わらなければ町は変わらない。僕は自分という人生を作るために帰ってきた。こうばるが破壊されるのと自分が破壊されるのは同次元。スルーしてはいけないと思った。あの記事を載せても、広告を止めるような客はいなかった。

辻井:今日は映画に登場している現地の皆さんもみえている。今の状況を話して頂けないか…



岩下すみ子さん:いまは20台ほどの重機が入って付け替え道路工事が進められていて、私たちは日々現場で抗議を続けている。県は私たちにきちんと説明もしないで工事を強行している。本当は現場に入ってはいけないが、それしか方法がない。私たちは工事現場のごみごみした中でお弁当を食べている。監督はじめ作業員も県の職員も若い。体力もある。自分の息子のような世代の人たちと毎日闘っている。少しでも工事を遅れさせるため、これからも頑張ります。ご理解よろしくお願いします!

辻井:いま話して下さった水没予定地の方はまさにそうだが、現地だけが当事者ではない。当事者って誰?
財政的には350億ほどの負担を強いられる佐世保市民も当事者だし…



小川:50年たっても進まない事業が有り得るのか?僕らの仕事は毎週毎週新しいものを探し変化を捉えている。そうしないと会社は潰れる。全ての人が時代とかけっこをしているはずなのに、税金でやる仕事だけが決まってることだからしょうがないと続けている。
市議会でもまともに議論されていない。情報がほとんど出ない。市民は知らない。情報がオープンになって初めて皆で議論ができる。僕が子どもの頃は開発は人間の発展のためになると言われていた。今そのように考える人はいないのでは?



辻井:確かに戦後の焼け野原から復興を遂げるには、水とか電気などのエネルギーが必要で、開発が優先されたのは自然の成り行きだった。だから僕も全てのダムに反対しているわけではないし、必要な公共事業も当然あると思っている。が、社会の状況が変わったら国や自治体も計画を見直すべきだ。

小川:これほど加速度的に変化している時代に、変わらないのは公共事業だけ。時のアセスメント(長時間進捗しない公共事業を,行政機関が時代状況の変化を踏まえて再評価し,中止や継続を判断すること)が導入されるようになったが、判断するのは役人。これでは変わりようがない。本当は市民の声で変わるべき。こんなに時間が経ったらもう止めようよという当たり前のシステムを作らなきゃ。



辻井:県の負担金(税金)や国からの補助金(税金)のことを考えると、長崎県民も国民も全てが当事者であるとの意識が必要。失われるものは自然だけではない。憲法で保障されているはずの基本的人権が侵害され、それが当たり前になる土台になりかねない。

<私たちにできること>

辻井:まず知ることが大事。知るためのきっかけとなるこの映画を広めよう。封切は6月に東京のユーロスペースで決定したが、九州に限っては3月から先行上映できることになった。近くの映画館にたくさんリクエストしてほしい。また、「いしきをかえよう」キャンペーンや話し合いを求める署名活動も広げてほしい。



山田:ぜひ現地こうばるに足を運んでほしい。そこには「まもりびと」がいます!声を掛けたらナイススマイルで答えてくれると思います。

小川:政治の話をするのは難しいが、それでも話した方がいい。市会議員と話した方がいい。何のために選挙があるのか?不勉強な議員には聞いてみよう。「あんた、石木ダムのために10万も出すと?家族で50万も出さんばいかんとよ」と。まずはここから楽しく話していきましょう。



最後はみんなで「いしきを変えよう!」のチラシを手に集合写真を撮りました。

ハイ、イシキー、(カシャ!)