石木ダム本体工事着手 反対住民との交渉難航
(長崎新聞2021/9/9 10:00) https://nordot.app/808502961457790976?c=174761113988793844
事業採択から46年を経て、本体着工した石木ダムの建設予定地。重機が掘削を始めた=川棚町
長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業で、県は8日、ダム本体工事に着手した。当初は2月中旬に着工予定だったが、水没予定地に暮らす反対住民13世帯と中村法道知事の対話実現のための「配慮」として半年間見合わせていた。1975年の事業採択から46年で大きな節目を迎えた。
これまでは、反対住民の抵抗を受け、水没する県道の付け替え工事にとどまっており、本体工事の最初となる掘削の工期を2度延長し、9月末までとしていた。県河川課は、順調に進めば工期内完了も可能として「安全に配慮しながら進捗(しんちょく)を図りたい」としている。
掘削を始めたのは、ダム堤体両端の上部斜面。昨年12月に本体工事としては初の入札を実施し、測量など準備を終えていた。8日は午前10時ごろ、上流から見て左岸を重機で掘り始め、右岸の木を伐採した。住民らが座り込みを続ける付け替え道路工事現場付近でも伐採をした。
今回の工事費は2020年度県予算の繰り越し分。県は21年度予算に左岸の下部斜面を掘削する工事費を盛り込んでいる。
県と住民の対話に向けた交渉は5月以降、文書で条件整理を続けたが、工事中断の在り方を巡って難航した。県は期限を8月末とし「9月以降は着実に事業を進める」と通告。住民側は「県に対話の意思はない」とみなし、中村知事は8月31日の定例会見で「これ以上さまざまな工事の延期は難しい」と述べていた。
県と佐世保市は土地収用法に基づいて全用地を取得し、19年11月に明け渡し期限を迎えたが、反対住民は応じていない。知事権限で家屋を撤去する行政代執行も可能な状況になっている。
石木ダムは、川棚町の治水と同市の利水が目的。同市水道局の谷本薫治局長は「早期完成を願う立場としては、進展につながるのではないかと思っている」と期待を寄せた。
一方、反対住民の岩下和雄さん(74)は「いかにもダム建設が進んでいると見せるためのパフォーマンス。私たちが同意しない限りダムはできない」と反発した。
石木ダム本体工事着手 混迷 一層深まる恐れも
(長崎新聞2021/9/9 09:44) https://nordot.app/808500122857357312?c=62479058578587648
長崎県が石木ダムの本体工事に着手したことで、事業は新たな局面に入った。地元住民や支援者の反対運動が活発化し、一層混迷を深める恐れがある。
県が昨年暮れから模索を続けてきた住民との対話は、先月末に事実上とん挫した。対話当日に限り工事を中断したい県と、即時中断をして対話に臨みたい住民側の思惑は最後まで相いれなかった。
県と佐世保市には「いったん工事を止めると再開させてもらえない」との懸念があったのは事実だが、結果、一昨年9月の対話以降何の進展もなく、本体工事に着手することになった。
住民側には、県がこのまま行政代執行に踏み切り家屋などを強制撤去するのかという不安が高まっている。これに対し中村法道知事は先月末の定例会見で「判断を要する状況になれば」と含みを持たせた。当面撤去せずとも工事を進められるのであれば、代執行までまだ時間があるとも取れるが、いずれは突き当たる問題だ。
その時、知事や佐世保市長が政治的リスクを取り、世論の反発必至で強制撤去するのか。それとも既に土地を明け渡した人や推進派の抗議を承知で事業を断念するのか。ただ、それまで行政と住民が消耗戦を続けても何も生み出さないどころか、対立が一層泥沼化している可能性もある。
確かに司法判断は事業の必要性を一定認めている。だが最近は水需要を巡り新型コロナという「変数」も加わり、状況が変わった側面もある。県と佐世保市は事業の権限を持つ側として、いま一度住民と真摯(しんし)に向き合う懐の深さを示すことができないか。
「実績づくりの茶番劇」 石木ダム本体工事着手 反対住民、冷ややか
(長崎新聞2021/9/9 10:30)u https://nordot.app/808506477440532480?c=174761113988793844
ダム本体建設予定地にある「団結小屋」から工事の様子を見つめる松本さん=川棚町
石木ダムは8日、事業採択から46年を経て本体工事に至ったが、長崎県東彼川棚町の現場近くで抗議の座り込みを続ける反対住民は「県の実績づくりのための茶番劇」と冷ややかに受け止めた。事業主体の県は、住民と中村法道知事との対話に向けた調整を打ち切り“強硬路線”を鮮明に。「追い詰めるつもりか」と不安を口にする住民もいるが、徹底抗戦の構えは崩していない。
同日午前10時すぎ。いつものように本体建設予定地近くで座り込みをしていた住民らが、続々と現れる県職員や業者に気付いた。石木川を挟んだ対岸の山を重機が登り、掘削を開始。動きを察知したマスコミも集まり、カメラを向けた。住民の岩下和雄さん(74)は「あんなのは本体工事でも何でもなく『ダムはできる』と県民に錯覚させるための宣伝。いちいち付き合う必要はない」と意に介さない様子でたばこを吹かした。「県に踊らされるあんたたちもあんたたち」とマスコミへの不満も口にした。
本体建設予定地に40年近くある通称「団結小屋」では、松本マツさん(94)が窓から重機の動きを見つめていた。「私たちが住んどってもお構いなしに進める。自分が哀れになってくるね」と悲しそうにつぶやいた。10年前にはお年寄り5、6人が連日集まったが、亡くなったり、病気を患ったりし、現在は松本さん1人が週3回通う。「この年になってどこに出て行けというのか。みんなの分まで頑張らんば」と唇を結んだ。
午後から現場を見に来た住民の石丸勇さん(72)は「歴代知事と同じやり口。後戻りできないようにちょっとだけ手を付けて、仕上げることなく次に渡す。中村知事も自分で完成させるつもりはないのでは」と冷静に分析した。
付け替え道路工事現場でも重機が木を倒し、土砂を削った。住民はここでも座り込みを続けており、川原千枝子さん(73)は「まるで嫌がらせ。こうやってじわじわ追い詰めて、私たちを出て行かせるつもりやろうか」とため息をついた。
(西日本新聞2021/9/9 6:00 ) https://www.nishinippon.co.jp/item/n/797983/
国の事業採択から46年。石木ダム建設に反対する住民側と、「喫緊に必要不可欠」と事業を推し進めようとする長崎県など行政側との溝は8日の本体着工で一層深まった。40年以上も平行線が続く事態の先行きは見通せないままだ。
「契約分を工期内に完成させたい」。県河川課の担当者は、着手したダム本体の堤体両端にある上部斜面を掘削する工事を9月末までに終える意向を明言した。その後、周辺工事を進め、ダム堤体そのものの建設に本格着工する工程だ。
ただ、堤体建設を始めるには、住民側が建設反対の象徴として築いた「団結小屋」の撤去が不可欠となる。県は土地収用法の手続きを進め、2019年に13世帯の家屋を強制収用する行政代執行が可能になっている。
中村法道知事は団結小屋などを撤去する行政代執行を「選択肢の一つ」に挙げる。「最後の手段。他に方法がない状況において総合的に判断する」としているものの、13世帯の家屋を収用するほどの規模の代執行は前例がない。県職員の一人は「ハードルは限りなく高い」と明かす。
一方、話し合いがないまま開始された本体工事に、住民側の不信は深まった。予定地で毎日座り込んでいる住民と支援者は8日朝、報道陣の姿で本体着工があることを知った。午前10時すぎ、重機が山肌を削り始めると、水没予定地に住む岩下和雄さん(74)は「立ち退かない住民に圧力をかけたいのだろうが、反対の意思は変わらない。本体工事に着手したという実績が欲しいだけのパフォーマンスだ」と憤った。
県が住民側への「配慮」を理由に控えていたダム本体以外の一部工事もこの日、2カ月半ぶりに再開された。「何十年も反対運動をしてきた。死ぬまで踏ん張ってやるけんね」。岩下さんの妻すみ子さん(72)は反発を強めた。
住民の理解を得ないまま工事を進めるのか。それとも「最後の手段」に踏み切るのか。県とともに事業を進める同県佐世保市の職員は懸念する。「地元理解を得られないまま40年以上が経過した。本体着工の重要局面でも、理解を得るという最も重要な問題が先送りされてしまった」
(岩佐遼介)
石木ダム本体工事着手 住民反対続く中 長崎県の行政代執行が焦点に
(西日本新聞2021/9/9 6:00 ) https://www.nishinippon.co.jp/item/n/797981/拡大
石木ダムの本体工事現場で土砂を掘削する重機=8日午後2時半、長崎県川棚町(撮影・才木希)
石木ダムの本体工事現場で土砂を掘削する重機=8日午後2時半、長崎県川棚町(撮影・才木希)
住民の反対運動が40年以上続く長崎県川棚町の石木ダム建設事業で、県や同県佐世保市は8日、先送りしていたダム本体の工事に着手した。国の事業採択から46年になるが、水没予定地13世帯の住民の理解は得られていない。今後は県が予定地の土地や建物を強制収用できる行政代執行に踏み切るかどうかが焦点となる。
県は2025年度のダム完成を目指している。着工したのはダム本体の堤体両端にある上部斜面を掘削する工事。午前10時ごろから重機で作業を進めた。工期は9月末に迫っており、県河川課は「衝突を避けるため事前に告知はしなかった。9日以降も工事を進める」としている。
本体工事は20年度に初めて予算化。県は中村法道知事と住民との対話を目指して着工を見送ってきたが、条件面で折り合わず、県が対話の期限とした8月末を過ぎていた。中村知事は8月末の定例記者会見で「反対運動が高まる可能性はあるが、安全を確保しながら進めていきたい」と本体着工の意向を示していた。 (泉修平、岩佐遼介)
【ワードボックス】石木ダム事業
長崎県と同県佐世保市が治水と市の水源確保を目的に、同県川棚町の石木川流域に計画。1975年度に国が事業採択し79年度に完成予定だったが、水没予定地の住民と支援者が反対運動を展開。県は82年、土地の強制測量に県警機動隊を動員し、座り込む住民らを排除して対立が深まった。住民らが事業認定取り消しを求めた訴訟は最高裁で住民側敗訴が確定。別の工事差し止め請求訴訟は一審で敗訴したが、福岡高裁で係争中。