いよいよ今日から公聴会が始まりました。
国交省九州地方整備局が石木ダム事業の公益性を判断するために、
賛成反対多様な意見を聴くことを目的として開催されたのです。
公聴会は、土地の強制収用を可能にする事業認定手続きの一環として行うわけですから、
どうしても反対派の言葉の方が重く、切実で、また説得力もあるように聞こえました。
(身びいきではなく…)
推進派の意見はどうしても過去の辛い体験談が多く、
洪水の被害とか、渇水時の苦労とか…
そこへいくと反対派は今と未来を見据えた話が多く、建設的に聞こえました。
(やっぱり身びいき?)
身びいきついでに、私の公述原稿を貼付しますので、暇だったら読んでみてください。
(30分分は長いので、ご覚悟を!)
1. 本当に水不足か
石木ダム事業の公益性を考えるとき大前提となるのが佐世保市の水事情です。
市長さんや水道局長さんはいつも
「佐世保市民は慢性的な水不足で苦しんでおり、それを解消するには石木ダムしかない」
と言われます。
それが正しければ公益性は高いかもしれません。
結論から言いますと、私は、水不足だとは思っていません。
もちろん、水が豊富だとも思いませんし、水道局の職員の皆さんが長い間ご苦労なさってきた
ことも知っています。そのことには心から感謝しています。
しかし少なくとも、新たにダムを造らなければならないほどの水不足では決してない
と、私は思っています。
私だけでなく主婦の多くは水不足とは感じていません。
なぜなら私たちは、お風呂もトイレも洗濯も、日常生活に困っていないからです。
私たちは昨年夏、石木ダムについての街頭アンケートを行いました。
市民100人の方に聞きましたが、「水不足で困っていますか?」との問いに、94%の人が
困っていないと答えました。
その主婦の実感を裏付ける資料があります。このグラフをご覧下さい。
これは給水量の実績値と予測値です。
緑の線が平均給水量の実績値、青の線が最大給水量の実績値です。
ここ10年間でこんなに減っています。
平均給水量は一日に約1万トン、最大給水量では2万トンも減っています。
一方赤の線を見てください。こちらは推計値です。
佐世保市は、国の補助金を受けるために、5年に一度石木ダム事業の再評価をやって
厚生労働省に提出しています。その時必ず、このような水需要の予測を出すのですが、
毎回かなり過大な増加傾向が示されます。そして、結果は毎回外れています。
これは5年前に出された予測ですが、昨年度のところを見てください。
赤線の23年度の予測は10万5千トンほどですが、青線の実績は8万トンですよね。
約2万5千トンも外れてしまっています。
佐世保市が出す予測はいつも現実を直視せず、希望的観測に基づいた計算に終始しているのです。
そして、給水量の減少については、
リーマンショックの影響などが原因で一時的なものだと言いますが、私はそうは思いません。
理由の第一は人口減少だと思います。
ここ10年間で給水人口は8000人ほど減りました。
水を使う人が減れば使用量が減るのは当たり前です。
また、節水機器の普及も大きな要因です。こちらのグラフをご覧下さい。
これはトイレで用を足した後に使う水の量を示したものです。
1970年代初めごろ造られていた便器では、1回につき約16リットルの水が必要でした。
それが2010年頃にはなんとたったの4リットル!以前の4分の1で足りるようになったのです。
トイレだけではありません。洗濯機も節水型の開発が進んでおり、10年前のものの半分ほどの
水量で洗えるようになっています。
このように、人口も減り、節水機器も普及した結果、どこの都市でも水需要は減っています。
それが紛れもない現実なのです。
そして、佐世保市の場合、これからもこの減少傾向は加速すると思います。
なぜなら、このグラフをごらんください。
グラフこれは昨年1月に九州経済調査会が示した人口予測です。
これによると、佐世保の人口は2035年には2010年の73.6%に落ち込むと予想されています。
つまり25年間で今の4分の3になるということです。
その減少率で25年後の水需要を予測すると、最大でも6万トンになってしまいます。
もちろん、それほど単純にあてはめることはできないでしょうが、かなり大きく減少することは
間違いないでしょう。
今でさえ水に不自由していないのに、これからはますます余裕が出てくると思います。
2. 今有る水源を活用しよう
ではなぜ、佐世保市は水が足りないと言うのでしょう。
それは、今保有している水源量を過小評価しているからです。
先ほど水道局からの説明の中で、佐世保市には77,000tしか水がないと言われました。
それは真実ではありません。こちらをごらんください。
これは、長崎県のサイト「石木ダムホームページ」に掲載されている資料です。
棒グラフで佐世保市の水源量を表しています。
左が現況=現在の状況で、右が石木ダムが出来た場合の計画水量を示しています。
現況の棒グラフの上に、105,500tと書かれています。
佐世保には現在105,500tの水源があるということです。
先ほど確認したように、昨年度の給水量は最大で8万トンでしたので、10万トン以上あれば
十分おつりがきます。
しかし、水道局はその中の28,500tは不安定な水源だからと言って完全に無視をするように
なりました。安定水源の77,000tしか無いと言うようになったのです。
そして、石木ダムを造って、40,000tの安定水源を確保すれば安心だ、
というのが佐世保市の主張です。
ちなみに、不安定水源とは、「安定して取水できない河川表流水や湧水のことだそうです。
しかし、その不安定水源からは、昨日も今日も毎日取水されています。
ずーっと昔から取水され続けてきた慣行水利権の水なのです。決してゼロにはならないのです。
それどころか、平成19年度の渇水の時は、これらの不安定水源から、
毎日15,000t〜25,000tもの水が取水されていました。
ということは、最低でも15,000tは取れる、頼りになる水源ということです。
安定水源77,000tにこの15,000tを足せば、92,000tになります。
つまり、いま現在、最低でも92,000tの水源を佐世保市は持っているのです。
現在の必要量80,000tは十分満たしています。
つまり、ダムなど造らなくても今有る水源で賄えるということです。
それにしても佐世保市は、どうしてこの大切な水を水源として認めないのでしょう?
どうして川の水よりダムの水を求めるのでしょう。
ダムの水も渇水になれば減る一方です。日照りが続けば、ダム湖も干上がります。
しかし、川が干上がることはめったにありません。流量は減っても川は流れ続けます。
その水は何年も前に降った雨水が大地にしみ込み、地下を旅して再び地上に出てきた水だからです。
森は緑のダムと言われます。
人間が造ったコンクリートのダムは自然を傷つけ、生態系を破壊し、
数十年かせいぜい100年で使い物にならないコンクリートの粗大ゴミとなり、
その時は再び巨額の費用を投じてダムを撤去しなければならなくなります。
しかし緑のダムは、人間が森を破壊しないかぎり、永遠に水を提供し続けてくれます。
しかも、無償で提供してくれます。
昨年、日本で初めてのダム撤去が熊本の荒瀬ダムで始まりました。
29億円かけて造られたダムが今、81億円という大金をかけて、
6年がかりで撤去されようとしています。
それは、清流球磨川の水が汚され、鮎漁が衰退して人口が減り、水害はかえって増え、
ヘドロの悪臭などダムによる被害に耐え切れなくなった住民の強い要望があったからです。
私たちもこのような事例を教訓として、目先のことだけを考えず、未来を見据えた対策を考える
べきではないでしょうか。
大村湾への影響
もう一つ、気になることがあります。右側の赤い数字を見てください。
今現在佐世保市は川棚川から安定水源として15,000t取水させてもらっています。
しかし、石木ダムを造ったら、毎日40,000tが新たに取水出来、
現在の15,000tと合わせて55,000tが確実に取水できるというのです。
そんなことをして大丈夫でしょうか?
一日40,000tも取水が増えるということは、年間にすると1460万トンの水が、
大村湾に流れ込まなくなるわけです。大村湾への影響が懸念されます。
大村湾は極端に閉鎖的な内海で、川の影響を受けやすいと言われています。
郡川に萱瀬ダムができて以来、大村湾へ流れ込む水量が減り、大村湾の水質が悪化した
ときいています。今また、川棚川からの水も減ってしまえば、大村湾の生態系がどうなるのか
大変心配されるところです。
代替案としての佐々川
しかし市民の中には、やはりもう少し水を確保したいとおっしゃる方々がいます。
佐世保市の経済発展のために企業を誘致したい、そのためには余裕ある水源が必要と考える
方々や、過去の大渇水の時の苦労がトラウマになっている方々などです。
その方々には、一つの代替案を提案したいと思います。
佐世保市の北部には佐々川という川が流れています。
佐々川は長さも流域面積も川棚川をやや上回る、2級河川としては県内トップの川です。
この佐々川から日量5000t、薦田ダムの集水用として認められた水利権が佐世保市にはある
のですが、なぜかこれがほとんど取水されていません。渇水時だけ取水されています。
佐世保市が本当に慢性的な水不足なら、どうして常時取水しないのでしょうか。
そして、集水用としての5千トンではなく、独立した水源として1万トンくらい取水できれば、
現状に不安を感じている方々にも安心してもらえると思います。
しかし、そのことをお願いしても、河川管理者の長崎県はそれを認めようとしません。
佐々川にはすでにたくさんの水利権が張り付いていて、新たに水利権を与える余裕はない
というのです。
しかし、調べてみますと、既得水利権の中には実際に使用されていない、いわゆる遊休水利権が
いろいろありました。
例えば、佐々町の「東部かんぱい」が有する水利権は23,200tもありますが、
ほとんど利用されていません。
過去10年間で取水されたのは、たった36日だけです。残りの日はすべてゼロです。
しかも取水された日も平均で3,300tほどです。どう考えても、2万トンほどの余裕があります。
厚労省はダムの代替案の一つとして水利権の転用を上げています。
現在の水利権を見直して、使われていないものは必要とするところへ転用すべきというものです。
これが佐々川で実行されれば、石木川を犠牲にしなくてもすみます。
里山の豊かな環境を守り、そこに暮らす人々の生活を守ることができます。
佐世保市が本当に水不足を心配するなら、佐々川の水利権を増やすための努力をするべきです。
それをしないのは、水不足解消が目的ではなく、
ダム建設そのものが目的化しているように思えてなりません。
それが誤解であることを願っています。
佐世保市民への負担
さて、多くの市民にとって、最大の関心事は、コストです。
ダムを造るには莫大な費用がかかります。
石木ダムの場合、総事業費285億円の35%が佐世保市の負担ですから、
それは約100億円にものぼります。
しかし、それだけではありません。
ダムからの水を取水し、それを佐世保まで導水し、その水をきれいに浄水するなど
あらゆる施設設備を造らなければなりません。他にも諸々の関連費が生じるでしょう。
そこで水道局にお尋ねします。
これらの費用、いわゆる石木ダム関連事業費の総額は一体いくらなのでしょうか。
そして、そのうち佐世保市が負担するのはいくらですか?
またその中の、水道局の負担分はいくらですか?
数字だけでけっこうですので明確にお答えください。
ありがとうございました。
総額は350億円で、そのうち298億円が佐世保市の負担だそうです。
つまり約300億円!市民にとってはたいへん重い負担です。
一世帯あたり30万円に近い負担となります。
しかも水道局の負担だけでも245億円だそうで、
これだけの負担金はどうやって処理されるのでしょうか?
やはり水道料金の値上げでしょうか?3年前に水道料金の値上げをしたばかりですから、
市民の納得はなかなか得られないでしょう。
そのときはまた市の一般会計から援助を求めるのでしょうか?
いずれにしても、それは私たち市民のお財布から出ていくものです。
税金としてとられるか水道料金としてとられるか、その違いだけです。
5年半ほど前、野村総研が出した「2040年の日本の水問題」というレポートがあります。
そこには、このように書かれていました。
「人口減少社会の到来に伴い、水需要は減少します。そして、2040年には上水道の需要は
現在の約半分から4分の3に減少する可能性があります。需要が減少し水道収益が減少すると、
水道事業者の収益悪化をもたらします。もし、このような水道事業の危機を水道料金の値上げ
でカバーするとなると2040年時点で、水道料金は、現状の1.3倍〜2.7倍になると推測されます」
これは一般論です。佐世保市の場合もっと厳しい事態が予想されます。
佐世保の水道施設は大変古いものが多く、漏水の原因ともなっています。
施設設備の更新にはやはり莫大なお金がかかるでしょうが、これは避けて通れません。
石木ダム計画から撤退すれば、施設の改築や補修、漏水対策にお金が回せます。
水もお金も限りあるものです。今有る中でやりくりする、そのような方針転換を図るべきです。
何を取って、何を捨てるか、佐世保市も私たち市民もよく考えるべきです。
いつまでも石木ダムに縛られるのは、現地の方々だけでなく
佐世保市民や水道局にとっても不幸なことだと思います。
私たちは、2年前の3・11で、自然の猛威を思い知らされました。
そして人間の愚かさも思い知りました。
福島では未だに15万人の人が避難生活を送っていますが、宮城や岩手の復興も進んでいません。
津波で破壊された海岸線がそのままです。復興が進まない理由は、公共事業だそうです。
いま全国各地で新たな公共事業が増えてきたので、復興予算は降りても、
被災地で働いてくれる派遣労働者が減ったのだそうです。
先日NHKスペシャルの番組の中で、現地の方が嘆いていました。
今は被災地が一日も早く日常生活を取り戻せるよう、お金も人も物も投入すべき時だと思います。
そしてトンネル崩落事故などでわかったように、
かつて右肩上がりの時代に造ったあらゆる建造物がいま老朽化しています。
これからは補修や改修に莫大な予算を充てねばならないでしょう。
古い危険なダムの撤去も、これからどんどん増えていくでしょう。
造る以上のお金がかかります。
新たなダム建設などは、よほどの切迫した状況でもなければ認められないはずです。
少なくとも石木ダムは、その例ではありません。