石木ダム問題の今

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長崎新聞連載ー混迷 石木ダム用地収用ー

混迷 石木ダム 用地収用・1 <傷跡> よぎる「強制」の記憶

「ダム建設絶対反対」を訴えるやぐらのそばで、強制測量の記憶をたどる松本さん=川棚町岩屋郷

 長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業で、全ての未買収地約12万平方メートルは20日午前0時、土地収用法に基づき県と同市が所有権を取得した。その一角の川原(こうばる)地区には反対住民13世帯約50人が暮らす。11月18日には家屋など物件がある土地の明け渡し期限となるが、住民側は応じない構えだ。事業採択から40年以上の長期にわたる公共事業は、なぜ混迷を極めたのか。経緯を振り返り、公と個で引き裂かれた人々の姿を見つめた。

 降りだした雨が、収穫を待つ稲穂やダム反対の看板をぬらした。自然豊かな田園風景のあちこちに看板が立ち並ぶ。「小さいころから当たり前の光景」。反対運動のシンボルでもあるやぐらのそばで、住民の松本好央(44)は笑った。
父と鉄工所を営み、13世帯で最も多い4世代8人で暮らす。ダム事業が国に採択された1975年に生まれ、「ダム問題とともに育った」。結婚前、地元に連れてきた妻の愛美(45)の表情がこわばるのを見て、看板だらけの光景が「異常」と初めて気づいた。
20日朝、家族では特にダムの話題は出なかった。土地の権利が消えても、日々の暮らしは続く。家屋など物件を含まない土地が対象だった19日に続き、自宅など物件を含む残りの土地の明け渡し期限が11月18日に迫る。強制的に住民を排除し、家屋を撤去する行政代執行がいよいよ現実味を帯びてきた。「奪われてたまるか」と思う半面、少年時代の暗い記憶が脳裏をよぎる。
82年5月、県は機動隊を投入して土地収用法に基づく立ち入り調査(強制測量)に踏み切り、抵抗する住民らと衝突した。当時小学2年生だった好央も学校を休み、測量を阻止する座り込みに加わった。機動隊員らが駆け足で農道を突き進んでくる。恐怖で震える手を仲間たちとつなぎ、「帰れ」と叫んだが次々と抱え上げられ、排除された。
当時の知事、高田勇は就任から3カ月足らずで強硬手段に出た。当時の県議、城戸智恵弘(85)は「前任の久保(勘一)さんなら、絶対にやらなかった」と分析する。「大事業には『一歩前進二歩後退』くらいの度量が必要。官僚出身の高田さんや彼を支える側近には、そうした政治的視点がなかった。結果、取り返しが付かない禍根を残した」
もし県が代執行を強行すれば、当時以上の恐怖を子どもたちが味わうかもしれない。ダム問題が亡霊のように付きまとう人生を、子どもたちに科してはいないか。父となった今、好央はそんな葛藤も抱く。
中村法道知事と地元住民が約5年ぶりに県庁で面会した19日、長女の晏奈(はるな)(17)が「古里を奪わないで」と訴えるのをそばで聞いた。誰かに教えられなくても、自分の言葉で、自分の気持ちを伝える姿を誇りに思った。帰宅後、家族でケーキを囲み、この日が誕生日だった妻を祝った。家族がいて、古里がある。このささやかな幸せを守りたい。混沌(こんとん)とした状況の中で、そう願っている。=文中敬称略=

https://this.kiji.is/548327777817674849

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2019.9.19 強制収用直前、知事との面会

 

9月19日、こうばる住民と長崎県知事との面会についての主な新聞記事です。

石木ダム 全用地収用 住民「古里、奪わないで」

©株式会社長崎新聞社

「ダムを造らないでください」と涙ながらに訴える女児=県庁

 長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業で、反対住民13世帯の宅地を含む全未買収地が19日、土地収用法に基づく「権利取得の時期」を迎えた。約5年ぶりに実現した中村法道知事との面会で、涙ながらに建設反対を訴えた住民ら。知事は「事業を進めていく必要がある」との考えを改めて示し、両者の溝は埋まる気配がない。13世帯もの宅地を強制収用する事態に、住民の支援者らは反発し、関係首長や推進団体も複雑な心境をのぞかせた。
約5年ぶりに実現した中村法道知事との面会には、水没予定地の川原(こうばる)地区で暮らす13世帯約50人のほとんどが参加。小学生から90代までの約20人がそれぞれの言葉で古里への思いを語った。高ぶる感情をのみ込みながら思いの丈をぶつける住民に対し、知事は目を落とし、淡々とメモを取る姿が目立った。「気持ちは伝わってるのか」。交わらない視線に象徴されるような県との深い隔たりに、住民たちはいら立ちを募らせた。
「川原での思い出が、自然や風景が、私は大好きです」。高校2年生の松本晏奈(はるな)さん(17)は知事へのメッセージを読み上げた。これまで人前でダムについての意見を述べることはあまりなかったが「自分も力になりたい」と勇気を出した。「帰る場所がなくなるなんて考えたくない。川原を奪わないでください」。声を詰まらせながら知事に語り掛け、手紙を渡した。曽祖母のマツさん(92)は「この年になってどこに移れというのか」としわくちゃの手を握り締めた。
3人の子どもを育てる炭谷潤一さん(38)は「県は理解を得る努力をするといいながら、手続き上は強制的に土地を取り上げている。私の家族と川原の人々を全力で守る」と語気を強めた。小学3年生の長女、沙桜(さお)さん(8)が「お家がなくなったらいやです。ダムを造らないでください」と涙ながらに訴えると、周囲からすすり泣きがもれた。
石丸穂澄さん(36)は、川原の自然や生きものを描いたイラストを持参。「知事が奪おうとしている私たちの大切なものです」と掲げた。精神疾患を抱えながら、古里の豊かな自然と生態系の魅力を広めようと描き続けてきた。「住み慣れた環境を離れるのは私にとって酷な要求。この落ち着いた環境がどうしても必要」と声を振り絞った。
最後に、長年運動の中心を担ってきた岩下和雄さん(72)がマイクを握った。10代で父を亡くし、若くしてダム反対運動に参加。歴代知事を舌鋒(ぜっぽう)鋭く追及してきたが、この日は「知事しかいません。どうかダム建設を取りやめてください」と深々と頭を下げた。他の住民がそれにならうと、知事も立ち上がって応じた。
知事は質問に答える以外はほぼ発言しなかったが「佐世保市の水不足は解消されていない」と事業への理解を求めた。「膝を交えてお話しする機会が持てるならありがたい」と今後の面会にも含みを持たせた。
面会を終えた住民は、一様にすっきりしない表情を浮かべた。川原伸也さん(48)は「知事が目を合わせてくれず、無難に仕事をこなしているように見えた」と不満をあらわにした。松本好央さん(43)は「知事が考えを変えることを期待する。面会はこれで終わりとは思っていない」と望みをつないだ。

石木ダム 全用地収用 知事と住民面会 行政代執行が焦点

©株式会社長崎新聞社

宅地を含む全ての未買収地が収用された石木ダムの建設予定地=川棚町

 長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業で、反対住民13世帯約50人の宅地を含む全ての未買収地約12万平方メートルは20日午前0時、土地収用法に基づき県と同市が所有権を取得した。一部の土地の明け渡し期限となった19日、建設予定地の住民らが中村法道知事と約5年ぶりに県庁で面会し、建設反対を訴えた。終了後、知事は報道陣に事業を推進していく姿勢を改めて示し、今後は行政代執行を巡る動きが焦点となる。

 石木ダムを巡っては、県収用委員会が5月、地権者に未買収地約12万平方メートルの明け渡しを求める裁決を出し、19日を「権利取得の時期」とした。これまでに取得した約64万3千平方メートルに続き、県と同市は20日午前零時に約12万平方メートルの権利を取得。住民の権利は消滅した。今後、登記はいったん住民側から国に移していく。県と同市はダム建設に必要な全用地を取得したことになる。
約12万平方メートルのうち、19日は家屋など物件を含まない土地(約1万5千平方メートル)の明け渡し期限で、物件を含む残りの土地については11月18日が期限。住民側が期限までに明け渡しに応じなければ、県と同市は知事に家屋の撤去や住民の排除といった行政代執行を請求でき、知事が対応を判断することになる。
面会は住民側が要請し、幼児や高齢者を含む約50人が午前10時から約2時間半、中村知事と面会。古里への思いや県の手法へ不満をぶつけ、「古里を奪わないで」「ダム計画を見直して」などと訴えた。中村知事はメモを取りながら耳を傾け、質問に答えた。
面会後、住民の岩下和雄さん(72)は「思いは伝えられた。本当にダムが必要なら、自分たちのやったことが間違っていないか見直してほしい。私たちは(土地の)名義が変わろうが今まで通り畑を耕し、稲を作り、ここで暮らしていく」と言い切った。
一方、中村知事は報道陣に「それぞれの方々の思いを大切にしながら、事業全体を進めていく必要があると改めて感じた。現状では今の方針で進まざるを得ない」と語った。

石木ダム建設予定地

石木ダム全用地収用 反対派市民ら抗議活動 長崎県との溝 埋まらず

©株式会社長崎新聞社

住民(右)から面会の報告を受ける支援者=県庁

 石木ダム建設や強制収用に反対する市民らは県庁や佐世保市内で抗議活動を繰り広げた。
中村法道知事と建設予定地の住民が約5年ぶりに面会した会場では、滋賀県知事時代に県内のダム建設を中止した嘉田由紀子参院議員が支援者の立場で傍聴。超党派で結成した「石木ダム強制収用を許さない議員連盟」メンバーでもある嘉田氏は終了後、取材に「(ダム建設を止める)方法はある。一番必要なのは地方自治の勇気。県民を愛する判断が必要だ」と力を込めた。
県庁前では午前10時半から支援者約40人が「強制収用やめろ」と記されたプラカードなどを手に抗議。長崎市在住の吉島範夫さん(77)は「県がしていることは人権侵害。最も混乱が少ないのは事業認定を取り下げることだ」と語った。
ダムの受益者である佐世保市内でも反対運動があった。市民ら約15人は、午前7時半から市役所前で「水は足りている」「石木ダムいらんばい」と記した幕などを掲げたり、通勤する職員にチラシを配ったりして、土地収用反対を訴えた。呼び掛け人の森田敦子さん(63)は「大好きな佐世保市が(建設予定地の)川原(こうばる)の人々の人権を無視するようなことがあってはならないし、それは恥ずかしいことだ」と述べた。
一方、川棚町のダム建設予定地では県道付け替え道路工事が粛々と進められた。

石木ダム全用地収用 円満解決願っていたが… 推進派、首長ら複雑な表情

©株式会社長崎新聞社

 石木ダム建設事業で関係自治体の首長や推進団体関係者は、円満ではない「強制収用」に複雑な心境をのぞかせた。ダム建設を求めつつも、行政代執行で住民を排除するような事態は避けてほしいと望む声も聞かれた。
川棚町の山口文夫町長は「円満な話し合いでの解決を願っていたので、(一部の)明け渡し期限を迎えたことは残念」とした上で、「古里に住み続けたいという思いは理解できるが、事業に協力し、移転していただいている8割の地権者の思いも大切にしなければならない」とコメント。移転した元住民の一人は「強制収用は自分が泣く泣く土地を出て行った当時に、想像していた最悪の事態。本当に何と言っていいのか」と言葉少なに語った。
全用地収用について「石木ダム建設促進佐世保市民の会」の寺山燎二会長(81)は、「水不足を解消するため私たちは建設をお願いするだけ」と冷静に受け止めつつも、「行政代執行は望まない。最後は(両者が)納得いく形に向かってほしい」と求めた。中村法道知事と反対住民が約5年ぶりに面会したことについて、佐世保市の朝長則男市長は「内容を把握していないのでコメントできない。県と足並みをそろえ進める」と述べるにとどめた。

石木ダム埋まらぬ溝 知事5年ぶり住民と面会

西日本新聞 長崎・佐世保版

知事に思いを訴え、そろって頭を下げる住民たち拡大

知事に思いを訴え、そろって頭を下げる住民たち

中村知事はダムの必要性を説明した

 県と佐世保市が川棚町川原(こうばる)地区で計画する石木ダム事業を巡り、19日、予定地の住民らと中村法道知事が県庁で5年ぶりに面会した。この日は一部土地の明け渡し期限ということもあり、張り詰めた空気の中での面会。両者の主張は最後まで平行線をたどった。 (野村大輔、岡部由佳里、平山成美)

■古里に住み続けたい 住民

「知事のお願いを聞きに来たのではなく、思いを伝えるために来た」。面会は川原地区に暮らす松本好央さん(44)が発言の口火を切った。家族4世代で知事に向き合い「生まれ育った古里に住み続けるのは悪いことか」と問い掛けた。

面会場所の大会議室に詰め掛けたのは4歳から92歳までの五十数人。このうち20人がマイクを握り、思いのたけを語った。

石木小3年の炭谷沙桜さん(8)は学校を早退して参加した。「私は家がなくなるのは嫌です。私は川原が好きです」。涙ながらに手紙を読み上げると、周りの大人たちがハンカチで目元をぬぐった。

40年以上、ダム建設反対の声を上げ続ける松本マツさん(92)は「川原のきれいな住みよか所に、なんでダムのできるとかな。ブルドーザーががらがらして、山が削れていくのがダム小屋から見えて悲しかです。この年になって、どこへ出て行けと言うのですか」と声を振り絞った。

川原の住民の似顔絵や、石木川の希少な水生生物の絵が掲げられる場面もあった。どちらも生活の場が奪われる危機にある。「この絵を見てどう思いますか」と作者の石丸穂積さん(36)は訴えた。

予定時間を超す約2時間半の面会を終えると、出席者は全員が十数秒にわたって深々と頭を下げた。

岩下和雄さん(72)は県庁ロビーで待機していた支援者に内容を報告。「住み続けたいという思いを中村知事に発信してきた。強行は間違っていると訴え続けたい」。帰途に就く岩永正さん(67)は「伝えた思いが少しでも知事に伝わってくれれば」と祈るようにつぶやいた。県庁前では支援者ら約30人が「強制収用やめろ!」と書いたプラカードなどを手に、面会の行方を見守った。佐世保市の松本美智恵さん(67)は「知事の方向転換は甘くないと思うが、5年間互いの気持ちを伝える場がなかったので、ここをスタートとしてほしい」と期待した。

■代執行は慎重に検討 知事

5年ぶりに住民と面会した中村知事は、「今日は知事に思いを伝える場だ」とする住民側が進行役を務めたため、聞き役に徹した。住民一人一人の訴えをメモしながら、時折、発言を求められた。

住民の一人、川棚町議の炭谷猛さん(68)から「話し合いを(これから)1カ月後、2カ月後にも設定しようと思うが、どうか」と水を向けられると、中村知事は「皆さんと地域の将来を話す機会をいただければ大変ありがたい」と応じた。だが、ダム計画の見直しを求める住民と、治水・利水を目的にダムの必要性を主張する知事との溝は最後まで埋まらなかった。

県は面会に際し「静穏な環境と円滑な進行」(河川課)にこだわった。5年前の前回、ダム予定地の川原公民館で行った面会は紛糾、知事や執行部が「十分に説明させてもらえなかった」(同)という苦々しい経験があるためだ。

面会が行われた大会議室の場所が報道陣に発表されたのは、この日の朝。住民以外の支援者が入ってこられないようにする目的で、面会場所へ通じる廊下をついたてで遮り、別室を通過させて廊下に戻る-まるで迷路のような仕掛けを施す念の入れようだった。マイクが用意されておらず、住民の抗議を受けて職員が準備する一幕もあった。

面会後、中村知事は報道陣に対し、これまでに事業に賛同して予定地を離れた住民がいることにも触れ「ダムの必要性はいささかも変わっておらず、先延ばしは許されない」と説明。行政代執行の可能性について「解決策がなくなった段階で総合的、慎重に検討する」と述べた

「古里を奪わないで」 長崎・石木ダム事業一部明け渡し期限 住民、知事に訴え

西日本新聞 社会面

中村法道知事(左)に手紙を渡す、石木ダム予定地に暮らす女児と父親=19日午前10時半ごろ、長崎県庁拡大

中村法道知事(左)に手紙を渡す、石木ダム予定地に暮らす女児と父親=19日午前10時半ごろ、長崎県庁

 長崎県と佐世保市が同県川棚町で進める石木ダム建設事業は19日、予定地の一部の土地について県収用委員会が定めた明け渡し期限を迎えた。この日は、反対運動を続けてきた住民と中村法道知事が5年ぶりに面会。子どもや高齢者を含む約50人が古里への思いを訴えた。国の事業採択から44年。ダムの必要性を主張する県側との議論はなお、平行線をたどっている。

石木ダム予定地は約79万3千平方メートル。これまでに54世帯が事業に同意し、移転した。一方、13世帯はダムの必要性に疑義を唱え、予定地に暮らし続けている。

2014年7月以来となる県と住民の面会は約2時間半に及んだ。川棚高2年の松本晏奈(はるな)さん(17)は「思い出が詰まった古里を奪われるのは絶対に嫌です。どうか私たちの思いを受け取ってください」と涙ながらに手紙を読み上げた。

中村知事は面会後、報道陣に「渇水で不自由した人もいる。用地を提供して協力した人も多く、そうした思いも大切に事業を進める必要がある」と述べ、話し合いを続ける意向を示した。

収用委は今年5月、この13世帯や、反対住民を支援する「一坪地主」が所有する約12万平方メートルを明け渡すよう命じる裁決を出した。一坪地主の所有山林を中心とする約1万5千平方メートルの明け渡し期限が19日、住民所有の宅地や田畑は11月18日。住民が立ち退かなければ、一定の手続きを経て強制的に家屋を撤去する行政代執行が可能になる。 (野村大輔、平山成美)

【ワードBOX】石木ダム

長崎県の川棚川の治水と佐世保市の水源確保を目的に、1975年度に国から事業採択された。総貯水量548万トン(東京ドーム4・4杯分相当)。現在の完成目標は2022年度で、総事業費285億円に対する18年度末の進捗(しんちょく)率は約55%。県収用委員会は5月の裁決で県に対し、一坪地主を含む地権者376人に補償額計約11億8325万円を支払うよう命じた。土地所有権は20日午前0時に消滅し、国が取得する。

長崎)石木ダム反対地権者、知事に思いの丈ぶつける

原口晋也、小川直樹 

 石木ダム計画を巡り、水没予定地の長崎県川棚町の反対地権者らが19日、中村法道知事と5年ぶりの面会を果たした。愛着のある土地の所有権が、県収用委員会の裁決により失われる最後の日だった。1962年に計画が持ち上がってから世代を継いで続く戦い。静穏を奪われ、怒り、泣いてきた住民たちが、行政代執行の権限をもつ知事に、整然と思いの丈をぶつけた。

川原(こうばる)地区の13世帯を中心に水没予定地に土地をもつ計16世帯の4歳~90代の計約50人が午前10時過ぎ、県庁3階会議室に入った。まず若い世代の家族が、強制収用しないよう訴えた。

最多の9人家族の松本好央(よしお)さん(44)は、4世代そろって面会に臨んだ。

口火を切った松本さんが語ったのは、県が強制測量をした1982年5月、機動隊の前に立ちふさがった小学2年の時の恐怖心だ。「あれは、長崎県の汚点だ。今度は前代未聞の暴挙をしようとしている。だが我々はこの先も住み続ける。勇気ある決断を」と計画断念を求めた。

長女で川棚高2年の晏奈(はるな)さんが父の話を継いだ。「ひいばあちゃんと畑で野菜を作り、食べ、田植えもやってきた。兄弟とホタルや魚を捕まえてきた」とふるさとの日常を紹介。「帰る場所がなくなるなんて考えたくもありません」と話し、声を詰まらせた。会場から、あちこちですすり泣きが漏れた。晏奈さんは思いをしたためた便箋(びんせん)を中村知事に手渡した。

松本さんの祖母マツさん(92)は、工事の監視を兼ねる通称「ダム小屋」に週2日こもる。「山が崩れ、ブルドーザーが動き回るのを見るのは悲しい。この年になってどこへ行けと言うのか? 一日も早くやめて下さい」と嘆願した。

3世代7人で暮らす炭谷潤一さん(38)は「強制的に土地を奪おうというのはおかしい。ダムの必要性の問題ではなく人道上の問題だ」と指摘。「私は家族と川原の人たち、コミュニティーを守る。絶対に手を触れさせない」と決然と述べた。長女で石木小3年の沙桜(さお)ちゃん(8)が「家がなくなるなんていや。川原が大好きです」と書いた便箋を読もうとしたが、嗚咽(おえつ)で言葉にならない。潤一さんに肩を抱かれながら、それでも最後まで読み上げた。

この間、地権者たちと目を合わせることはほとんどなかった中村知事を、石丸キム子さん(69)は「知事、顔をあげて下さい」と柔らかい口調でたしなめた。炎天下の現場に来ている県職員を気遣い、「本来の県民のための仕事をさせてあげて」と求めた。

1972年に当時の川原の総代や県知事らが交わした覚書を取り上げた地権者もいた。「建設の必要が生じたときは、協議の上、同意を受けた後着手する」などという覚書の取り決めを「県は簡単に破棄した」と地権者は批判。知事は「司法の場で明らかに」などとして回答を避けた。

面会後、中村知事は取材に対し、「ふるさとへの熱い思いは大切にしなければならない」と述べながらも、「(利水や治水の)対策の必要性はいささかも変わっていない」と、事業推進の姿勢は変えなかった。

面会を傍聴した前滋賀県知事嘉田由紀子参院議員は、地権者らを前に「法にも理にも情にもかなっていない事業。今日が(戦いの)新たな始まりです」と声を上げた。

川原地区の地権者13世帯は土地の補償金の受け取りの拒否を続けたため、補償金は19日までに法務局に供託された。(原口晋也、小川直樹)

 

17歳「故郷奪われるのは絶対嫌」ダム建設進める知事に

小川直樹 

 長崎県佐世保市が川棚町で建設を進める石木ダムを巡り、水没予定地の川原(こうばる)地区に住む13世帯の地権者らが19日、県庁で中村法道知事と面会した。居住地の明け渡し期限が11月18日に迫る中、ふるさとに住み続ける決意を知事に伝え、強制収用に踏み切らないよう求めた。

面会に臨んだ住民は4歳~90代までの約50人。「知事、どれだけ弱い者いじめをするのですか?」。川原地区に4世代で住む自営業松本好央さん(44)が口火を切った。長女の晏奈(はるな)さん(17)は「ふるさとが奪われるのは絶対嫌です」と思いをしたためた手紙を読み上げ、知事に手渡した。

1975年に建設が決まった石木ダムは水没予定地の用地買収が進まず、県収用委員会は5月の裁決で、川原地区を含む約12万平方メートルの明け渡しを命じた。地権者の土地所有権は9月20日午前0時に国へ移り、11月18日までに居住地から立ち退かなければ、県は行政代執行による強制収用が可能になる。実際にこの手続きに踏み切るかどうかは知事の判断だ。

知事が立ち退きを拒む地権者と会うのは5年ぶりだったが、ダムの必要性を積極的に訴えることはせず、約2時間半の間、聞き役に回った。今後も面会の場を求める声には「機会を頂ければありがたい」と応じた。

ただ、面会後に取材に応じた知事は「事業全体を進めていく必要があると改めて感じた」と強調。代執行については「しかるべきタイミングで、決断をしなければならない」と述べた。(小川直樹)

石木ダム反対地権者5年ぶりの知事面会

https://www3.nhk.or.jp/lnews/nagasaki/20190919/5030005402.html

 

まるで壊れたテープレコーダー

(9月18日朝日新聞)

17日におこなわれた「公共事業チェック議員の会」による石木ダムについての国交省と厚労省へのヒアリングの記事。

ここに書かれているように、国交省も厚労省も、石木ダム事業に多額の補助金を出しているにもかかわらず、事業者は長崎県や佐世保市なので我々は「答える立場にない」というのが基本的な姿勢です。

今回は、長崎県と佐世保市にも参加要請をしたと(チェック議員の会から)聞いていたので、私もわざわざ上京したのですが、ふたを開けてみると「議会中のため対応できる職員がいない」とのことで欠席でした。「対応できない」のではなく「説明できない」から「逃げた」のかな?残念至極!その思いを嘉田由紀子参院議員が代弁してくれました。

嘉田議員:ダム建設において、利水の場合の財政負担は、その大半を水道料金におんぶしている。佐世保市水道局の経営計画を知りたかったが今日は欠席とのことで聞けなくて残念。経営計画を出すよう、国として指導できないか?

厚労省水道課:経営計画の策定そのものは佐世保市水道局が決めるものであり、国が関与すべきではない。

初鹿衆院議員:石木ダムには国庫補助が入っている。国民の税金を使っているのだから、国にも一定の責任があるではないか。

厚労省:国としても持続可能な水道事業のために、事業体が基盤強化を果たしていくよう指導はしている。

嘉田議員:佐世保市は老朽化が進んでいて漏水率が高い。ケアするための費用もかかる。ダムと漏水と、トータルで水道料金がどのくらい上がるのか、それがわからないとダムに賛成とか反対とか市民は言えない。市民にしっかりとデータを出すよう指導してほしい。

厚労省:収支の見通しの作成は努力義務化されている。その作成に当たって水需要の予測とそれに対応するための計画はオープンにするよう指導している。

大河原議員:佐世保市は何度も水需要予測を出しているが、それについて国はどのようにチェックしてきたのか?

初鹿議員:みなさん、こちらの資料をご覧いただきたい。

過去の予測はいずれも右肩上がりで、その後の実績値は横ばいか減少で、予測は大きく外れている。直近のものがこちら。

特に2014年度から2015年度は大きく跳ね上がっている。このような予測は不自然だと思わないか?思わないなら、その根拠を示してほしい。

厚労省:水需要予測は、水の安定確保のために、その能力規模の策定を行うもので、予測値は渇水や事故などの非常時への対応も含めて算出されている。渇水や事故が起きなかった場合は実績値が予測値を下回るのは当然であり、両者に差があることで予測がおかしいとは言えない。

初鹿議員:僕が聞きたいのは、ここ。この3年間でポーンと跳ね上がっている。特に2013年度から2014年度のところ。1年間に1日の給水量が10,000㎥以上増えている。そのわけを知りたいと言っている。それに答えてほしい。

厚労省:繰り返しになりますが、渇水だの事故だのがあったとしても安定して水を供給するというのが・・・差があるからといって直ちに見直す必要があるとは言えない。

嘉田議員:もちろんリスクを見込んでの対策は必要です。しかし、佐世保のような急激な右肩上がりの予測を出している事業体が全国にどれくらいあるのか示してほしい。それとも佐世保だけがハイリスクなのか?だとしたら、それは何故?その説明が無ければ、国民は納得できません。

厚労省:繰り返しになりますが、需要予測は渇水だったり事故だったり・・・

もう聞き飽きた!あなたたちは壊れたテープレコーダーか?「渇水だったり事故だったり・・・」それを繰り返すばかり。それしか言えないの?エリート中のエリートであるはずのあなた方なのに!我慢できなくなって挙手をして発言させて頂きました。

佐世保市民:私たち市民もこの予測が示されたときは驚きました。佐世保だけ急激に人口が増えるはずもないし、大型工業団地ができるとか明確な根拠があるわけではなかったので。ただ石木ダム供用開始予定年度に合わせて予測値が急激に増えていたので、私たちはダム有りきの数字合わせだと思っていました。実際、その後の水需要は増えるどころか減っています。直近(9月13日)の給水量は、68,840㎥でした。残暑が厳しいこの時期でも7万㎥を切っています。一方、保有水源は実際のところ10万㎥あります。(市は安定水源としては77,000㎥しかないと言っていますが、市が不安定と位置付ける水源からも毎日取水しているし、渇水時にも取水しています。安定水源と何ら変わりありません)十分足りています。もちろん水源にたっぷり余裕があることは良いことでしょうが、だからといって、隣の自治体の住民の生活を破壊してまで水が欲しいとは私たちは決して思ってはいません。そのことを伝えるために佐世保からやってきました。

水源連共同代表嶋津氏:ダム計画のある水道事業体は需要予測を過大に出すんですよ。そして、ダムが完成したら予測を減らす。当別ダムに参画した札幌市。宮ケ瀬ダムに参画した川崎市、横浜市、横須賀市、みなそうですよ。ご存知なければ、よく調べてください。

嶋津さんの発言にやっと壊れたテープレコーダーも静かになりましたが、今度は国交省のお役人が「繰り返しになりますけど」の言葉を連発。

初鹿議員:利水も治水もこんなに疑問だらけの石木ダムのために、住民の土地が強制収用されようとしている。強行させていいのか?住民や県民の理解を得るために公開討論会を開くよう国交省は助言できないのか?

国交省:それは県が決めることであり・・・

初鹿議員:そうは言っても、国交省から長崎県に何人出向しているのか?副知事も土木部長も主要なポストは国交省が占めているのではないか?反対派を説得できるような議論を、堂々と公開の場でやるよう、県の河川課に指導できる立場にいるではないか。

国交省:繰り返しになりますが、それは事業主体である県がお決めになることで・・・

 

私にとって石木ダム関係省庁へのヒアリングへの参加は3回目ですが、お役人の対応は今回が最悪でした。何を聞いても返ってくる言葉は同じ。判を押したように。壊れたテープレコーダーのように。
対話にならない。一方通行。

こうやって切り抜けていく方が出世していくのでしょうか。
それに負けない議員の皆さんはさすがです!
これからも、公共事業チェック議員の会の皆さんの活躍に期待します。

住民の犠牲はやむを得ない?!

長崎のダム建設「誰かが犠牲に」 北村創生相発言、住民の反発も

9/14(土) 19:36配信

共同通信

 北村誠吾地方創生担当相は14日、長崎県佐世保市で記者会見し、一部住民が反対している同県川棚町の石木ダム建設計画について、生活の維持のためには住民の犠牲はやむを得ないとの認識を示した。「誰かが犠牲(になり)、協力して役に立つことで世の中は成り立っている」と発言した。

ダムは1962年に北村氏の地元佐世保市の水不足解消や、川棚町の治水を理由に県などが計画。予定地の土地明け渡し期限が11月に迫っており、反対派住民の反発が強まるのは必至だ。

会見で北村氏は「人がそれぞれの立場と生き方の中で、自分自身の何かを犠牲にして生きていると思う」と持論を述べた。

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こんな人を閣僚に選んだのは安倍総理だけど、

こんな人を国会議員に選んだのは長崎県民であり、

とりわけ、私たち佐世保市民!

チョー恥ずかしい!!! (>_<)

強制収用を許さない議員連盟 発足!

NBCニュース

09月14日 18時03分

石木ダム事業で強制収用を許さない議員連盟設立 [長崎]

東彼・川棚町に計画されている石木ダム事業で、土地の強制的な収容や、行政代執行に、人権上問題がないか考えて欲しいと訴える超党派の議員連盟が、きょう、設立されました。

議連は、全国から5人の国会議員を含む超党派の73人が参加して設立されました。
呼びかけたのは、東彼3町の町議5人で、石木ダム事業では、住民の県への土地の明け渡し期限が、今月19日に迫っているため、強制的な措置の前に、「賛成・反対だけでなく、人権を侵害してまでダムが必要か議論して欲しい」と訴えました。
議連では、行政代執行が行われないよう知事や県に、申し入れを行いたいとしています。

 

こちらは、9/15の長崎新聞の記事。

代表の城後議員が述べたように、「住民が納得しないまま」行政がごり押ししてきたことに問題があり、その住民の声に耳を傾けるのが議員の役目だし、そういう公共事業のあり方をチェックするのが議会の役目のはず。

なのに、そうではなく、行政に忖度する議員のいかに多いことか…。

この73名の議員の行動に勇気を得て、もっともっと後に続く議員の数が増えますように…!!

 

ダムに沈む生きものを助けたい

石木川は、小学生が遊ぶにはもってこいの場所です。

魚類だけでなく、カニや両生類、昆虫の幼虫など様々な種類の生きものとたくさん出会えるから。

生きものの面白さ、不思議さにワクワクして、もっと遊びたい!また来たい!と子どもたちは言います。

この子たちから、石木川を奪わないでほしい。

少女は、石木川に棲む全ての生きものを助けたい、と思うだけでなく、石木川の流域に住む人間も救いたいと思っている。ふるさとを追われた人間の心がどんなに生命力を失うか、まるで理解しているよう…

知事よ、佐世保市長よ、過去の決め事に囚われるのはもう止めて、長崎の未来を担う賢いこの子たちの声に耳を澄まし、この子たちのための政治を、どうかお願いします!

石木ダム緊急集会 in 佐世保

9月8日、佐世保市内でも強制収用を何とか止めたい!と思う市民が集まって、語り合う集会が開かれました。主催者は私たち石木川まもり隊ですが、多くの人の協力で、予想以上の参加者と、予想以上の真剣な声を聞くことができました。詳細は、こちらのページをご覧ください。

 

知事と地権者、面会へ!

5年ぶりの面会!

やっと知事も地権者の声に耳を傾ける気になってくれたのか!と思いきや…

どうもそうではないらしい。

「あらためて事業への同意を求める」ためらしい…

 

その横には、強制収用に反対する佐世保市民による申し入れの記事。

提出したのは「佐世保女性ネットワーク」「強制収用を許さない市民の会」「九十九島9条&99条の会」「佐世保の未来を考える市民の会」の4団体。

嬉しいですね。あちこちで、石木ダムのための強制収用に反対する市民が増殖中です。

署名5万筆提出 2019年8月28日

 

石木ダム討論求め5万人署名提出

石木ダム建設の是非を巡り、公開討論会を開くよう求めて署名活動を行っている市民団体のメンバーが県庁を訪れ、県の担当者におよそ5万人分の署名を提出しました。

県と佐世保市が川棚町に建設を進めている石木ダムを巡っては、今年5月に県の収用委員会の裁決が出て、ダムの建設に必要な全ての土地を強制的に収容できるようになりました。

ダム建設の是非を巡り、県に対して公開討論会を開くよう求める署名活動を行っている市民団体のメンバーが県庁を訪れ、河川課の浦瀬俊郎課長に5万947人分の署名を提出しました。

浦瀬課長は「石木ダムの事業認定の取り消しなどを巡る裁判の途中なので、今は公開討論のタイミングではない。今回の要望を中村知事に伝え、引き続き県民に石木ダムの意義を分かりやすく広報していきたい」と述べました。

このあと、記者会見で市民団体のメンバーの1人でアウトドアショップ「パタゴニア」の日本支社の支社長を務める辻井隆行さんは「透明性のある話し合いの場をきっかけに、今の社会的要請を反映した社会全体に求められる計画に生まれ変わることを願っている」と話していました。

石木ダム公開討論会求める署名を提出
NCC文化放送 2019年08月28日

県と佐世保市が東彼・川棚町に建設する石木ダムについて公開の場での討論会を開催するよう求める市民団体が集めた署名を県に提出しました。県庁を訪れたのは「いしきをかえよう実行委員会」のメンバー約15人です。2017年10月から街頭やインターネットで集めた5万947人分の署名を提出しました。佐世保西高校3年の荒岡梨乃さん(17)は中学2年の時、石木ダム建設予定地に飛び交うホタルの写真を見てこの活動に興味を持ったといいます。学校の友達らに呼び掛け署名を集めました。県の担当者は署名は受け取ったものの会が求める公開討論会については裁判の係争中であり好ましくないとの認識を示しました。石木ダム建設予定地には今なお13世帯約60人が暮らしていますが県の収用委員会の裁決により県は来月19日以降、土地の強制収用が可能となります。

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