「私は子どもたちと社会問題を ただ「学びたいだけ」なのです」と書かれたメールがN先生から送られてきたのは、3月10日のことでした。
昨年11月、川棚町の川原(こうばる)地区にN市立Y小学校の6年生全員が社会科見学に訪れ、たくさんの貴重なことを学びました。その授業を企画したN先生からのメールです。N先生は、その後、校長先生や市教委からの聞き取り調査を受け、校長先生は市教委へ顛末書を提出したり、いろんなやり取りがあったようです。
その経緯の詳細が記されており、その内容について、石木川まもり隊のブログでの公開もOKとのことでした。それだけ事実関係には絶対的な自信があったからでしょう。
しかし、3月という時期的なことを考えれば、N先生や校長先生の人事異動などに影響があってはなりません。ブログでの公開は控えていました。
新年度、N先生はやはり他校へ転任となりました。今なら可能と判断し、N先生の教師としての想いや教育への情熱を少しでも知っていただきたく、メールの一部を抜粋して転載させていただきます。
N先生は、今回の社会科見学が恣意的だとか中立でないなどの批判に対し、3つのポイントをあげておられました。
1.コメントの一部を切り取って報道。
見学の翌朝、校長室にいきなり呼ばれ、「昨日のあなたの発言はおかしい。恣意的じゃないか!」と言われたので、インタビューの内容を正確に答えました。
記者「この素晴らしい社会科見学がよく実施できたなあ、と思いますが、いかがですか。」
私「その点では、ひとえに校長をはじめ、市教委のご理解のおかげと感謝しています。」
記者「この社会科見学の狙いは?」
私「3つあります。1つ目は、自然。シーボルトコレクションでヨーロッパに紹介されたいくつかの動植物が絶滅寸前になっているが、ここにはその貴重な種がまだ生息しているという。それほど貴重な自然がここにはある。
2つ目は、平和。川棚町の戦争遺跡パンフレットにも載っていない戦時中の遺構がいくつか残っているのに、すでに埋められる寸前のものもあった。75年以上も残されてきた貴重な戦争遺跡がここにある。
3つ目は、くらし、くらしとかかわる人権。今年度から教科書が変わり、4月から公民で日本国憲法の学習をしてきた。里山のくらしと公共工事、生存権や財産権と公共の福祉との関係で学ぶべき貴重なものがここにある。以上3点で、いい教材だと思います。」
当日の放送では赤字の所だけ流れていましたので、そう説明しました。
2.政治的中立とは何か?
石木ダム問題を中立に扱うことは、賛成・反対の両方の意見を聞いて考えることだと思います。
県や佐世保市に問い合わせ、訴訟中の案件だから対応できないと断られたり門前払いされたりしましたが、県や佐世保市のホームページで学習する計画と実践をしてきました。私のクラスの子どもたちは、柔軟に学習していきました。もうすぐ卒業ですが、素晴らしい児童に出会うことができて、私は本当に幸せです。
3.ダム問題だけを肥大化し、問題視したのではない。
➀ 自然について
こうばる地区での自然体験では、本当に有意義な時間を過ごすことができました。見学当日、自然との向き合い方も子どもたちは学び、カマキリを手に乗せて大はしゃぎする姿がとても印象的でした。
➁ 平和について
疎開した川棚町海軍工廠跡地のコンクリート塀が2か所、高さ3m、長さ50m以上あったと思います。そのうちの一つは今にも埋め尽くされてしまいそうでした。早期に保存を急がなければなりません。登り窯のような2段の長い倉庫も1つありました。これは立ち入り禁止場所にありました。長い防空壕もありました。50m以上ありました。入り口をふさがれているいくつかの防空壕跡もありました。
これらの戦争遺跡は、川棚町教育委員会発行の小学校中学年用の社会科副読本には載っていません。一人でも多くの人にこの事実を知らせて、保存してもらいたいものです。海軍用地のコンクリート標柱も、一人の住民の庭から見つかりました。物言わぬ生き証人を保存することは未来の戦禍を防ぐ、最初の試金石です。「ノーモア・ナガサキ」を世界中に訴える被爆都市・長崎市と被爆県・長崎県は、これらの戦争遺跡の保存に尽力・協力していくべきです。
➂ くらし、くらしと人権について憲法で保障されている居住権や財産権を脅かされ、ずっと県や佐世保市、国と対峙してきたこうばる地区13世帯、約50名の方々。彼らが、本当にわがままだとか、危険な人たちだという先入観を捨てて、一度こうばるへ来てみてください。いろんなことがわかります。校長、市教委の皆さん、高圧的な投書や問い合わせをする皆さんに訴えます。ほんとうに、一度こうばるに来てください。自然やそこに住む人々の話に耳を傾けてください。
最後に、今回の教材研究をしてたどり着いた私の結論です。
こうばるの13世帯の人たちは、ダム建設に反対ではなく、「ここにいたい」だけなのです。
長崎県知事様
口約束した話し合いを 早くしましょう。
話し合いの前に工事をどんどん進めるから、静かな話し合いが遠のく…話し合いで仲直りしたいと言った直ぐに、叩かれたりけられたりしたら、誰でも怒ります。声がでかくなります。子どもでもわかることです。是非、子どもにもわかるような理路整然とした議論をお願いします。子どもたちにもわかるように事業計画の必要性からしっかり話せば、きっと静かな話し合いになります。静かな話し合いを遠ざけているのは、発言したご自身です。
そして、私は子どもたちと社会問題を ただ「学びたいだけ」なのです。
来年度も実施できることを強く望みます。
子どもたちに「教える」のではなく、共に「学びたい」と言うN先生。こんな先生に出会える子どもたちは幸せですね。新しい学校でも、N先生らしく、共に学び続けてください。
そして、是非また、子どもたちと共に、こうばるを見学に来てください。きっと新たな発見や体験が得られると思いますよ。(‘◇’)ゞ