石木ダム工事差止訴訟控訴審、結審

6月18日 雨の中の門前集会。石木ダム訴訟では初めてのことです。

皆、片手に傘、もう片方の手には横断幕やメッセージボード。
傘を打つ雨音に邪魔されながらも、石丸さん(こうばる住民)や弁護団長の話に耳を傾けていました。

石丸さん:前回同様、今日も地元からやってきたのは私だけです。いま私たちは月曜日から土曜日まで毎日、工事現場で抗議の座り込みをやっているので、現場を離れることができません。そういうわけで、大事な裁判に今回も私1人しか来られませんでした。福岡の方には毎回たくさん集まっていただき、本当に感謝しています。今後ともよろしくお願いいたします。

馬奈木弁護団長:私はもう50年ほど裁判に関わっています。1990年代頃までの裁判所なら、同じ判決を出すにしても証拠調べはきちんとやった。なぜなら裁判とは議論を尽くすところだから。ところが近年の裁判所はその役目を果たしていない。石木ダム事業認定取消訴訟の結審の時、裁判長は「もうこれ以上お話を聴く必要は無い」と言った。この言葉を私は忘れない。裁判官が聞く耳を持たなければ裁判の意味は無い。結審にあたって今日の裁判長は何とおっしゃるか、私は注目しています。

14:30、開廷。
裁判長は、弁護団に何か2,3確認した後、弁論を許可。

まず、高橋弁護士から、利水について提出した準備書面の要旨が述べられました。
21.06.10-控訴審J7要旨(高橋)

裁判長:ではこれで弁論は終結ということで、終結にあたっての意見陳述をどうぞ。

高橋弁護士:その前に、新たな証拠や証人申請をしておりましたが・・?

裁判長:それについては、いずれも必要のないものと裁判所は判断しました。

門前集会での馬奈木弁護団長の話を聞いて、みんな注目していたのでしょう。「えー!なんで?」「森富義明裁判長、お前もか・・」という声に出せない思いが、傍聴者の表情に浮かんでいました。(原告席に居た私からは傍聴席の人の顔が見えていました)

そして、この後は流れ作業のように、次の意見陳述へと移りました。

石丸勇さん(石木ダム建設予定地こうばる住民)
R3.6.18意見陳述書(石丸勇)

この素晴らしい陳述に誰もが心の中で頷きながら聴いていたと思いますが、実際に声に出す傍聴者がいました。

「そうです!」という声が、高橋弁護士の時にも1回発せられ、石丸さんの時には3回も。裁判長は1回だけ「傍聴人は発言しないように!」と注意しましたが、その後はもう何も言いませんでした。

そして、石丸さんの陳述後、傍聴席から大きな拍手・・・。
これにも無反応の裁判長。

魚住弁護士
2021.6.18意見書(魚住)

陳述後、またもや法廷に響き渡る拍手。
裁判長からは注意無し。
諦め?もしや・・共感?

など妄想が一瞬脳内を過りましたが、
陳述が終わるやいなや、

裁判長:では、これで弁論を終結します。
判決は10月21日午後2時半。101号法廷。
以上です。

と、無表情に淡々と述べ、退席。
あああああ・・・・「イチケイのカラス」は、やはりここにはいなかった。

<報告集会>
福岡県弁護士会館2階大ホールにて。



いつものように、事務局の平山弁護士から、前回期日(3月25日)から今日までの経緯と、今日の法廷でのやり取りについての説明がありました。


そして、判決期日を伝え、それまでの4ヶ月間私たちに何ができるか、共に考え協力していこうと呼びかけられました。

続いて、陳述者からの発言です。

高橋弁護士:今回陳述したのは、佐世保市がおこなった2019年度の再評価がいかに問題だらけであったかを述べた準備書面7を要約したものです。その準備書面はほぼ丸々遠藤さん(水源開発問題全国連絡会共同代表)が書かれたもので、大変分かりやすくまとめてあります。よかったらそちらも是非読んでいただければと思います。
差止め控訴審J7

魚住弁護士:この裁判に関わって初めての意見陳述です。私は、なぜ川原の人たちが訴訟という手段に出たのか、それを3つの観点(立憲民主主義、住民自治・団体自治、将来世代)から言わせてもらいました。例えば、将来世代の観点で言うと、アメリカインディアンの中には7世代先のことを考えて物事を決めようという考えがあります。こういう視点の大切さを盛り込んだつもりです。

石丸控訴人:伝わったかなと少し不安でしたが、最後に皆さんから拍手をいただいて、よかったなと思いました。私は県が石木ダムを進める上で、いかに私たちを騙しながら、世間を誤魔化しながらやってきたかを伝えたかった。それから、県は私たちを追い出せないまま堰堤を造ろうとしています。堰堤ができ水を溜めれば私たちは水没させられるのです。また、それに抵抗しようとすると、かつての強制測量の時のような流血の事態にもなるでしょう。そういう現状も伝えたかったので陳述書に盛り込みました。

質疑応答
Aさん:石丸さんの陳述の中に、国交省の有識者会議で「石木ダムに関しては、事業に関して様々な意見があることに鑑み、地域の方々の理解が得られるよう努力することを希望する」という付帯意見が付けられたことが書かれていますが、当時は民主党政権だったと思います。その後、自民党政権になってから、この付帯意見はどのようになったのか事実経過がわかれば教えていただきたい。

石丸さん:民主党政権の時にダム検証が行われ、石木ダムは検証の結果「事業継続」となったけれど、「地域の方々の理解が得られるよう努力すること」という付帯意見が付きました。ダム検証そのものは悪いことではないが、やり方がまずかった、失敗だったと思います。あれで石木ダムも、お墨付きを得た形になり、事業認定にも繋がっていったので。

Aさん:近々知事と話し合うための協議がなされようとしているようですが、これは本体工事に進むための布石のようにも感じられます。皆さんのお考えを聞かせて頂きたい。

石丸さん:県の言う話し合いはポーズだと私たちも思っています。今日午前、地元では記者会見をやりました。それは私たちの真意を伝えるためです。県が予定した明日の事前協議を結果的に私たちは断りましたが、工事を中断しなければ話し合う環境にはならないということを伝えるためでした。県は私たちが話し合いを拒否しているという形に持って行こうとしていますが、話し合う環境を作ろうとしない県の方こそ話し合う意思はないのだということです。

Bさん:石丸さんの陳述書には、石木ダムの当初の目的は針尾工業団地の水源確保のためだったと書かれています。私は以前、針尾工業団地の調査(ここにはどのような業種が適しているかという調査)に関わっていました。そのとき言われたのは、ここには水が無い、それを前提に考えてほしいと。私たちは石木ダムなど全然聞いていない。今それを知って非常に悔しく思っています。

Cさん:魚住弁護士の陳述書の中に「川原の住民である控訴人等には、佐世保市議会議員、佐世保市長を選出するための選挙権それ自体が認められていないのです。すなわち、住民自治・団体自治の本質的部分である、選挙権それ自体が保障されてはいないのです」とありますが、そこの意味がよくわからないのですが・・・。

魚住弁護士:石木ダムは長崎県と佐世保市の共同事業です。こうばる住民は川棚町民なので佐世保市長を選ぶ権利はありませんよね。権利が与えられていない自治体の政策によって追い出されるのは問題だと言っているのです。

Cさん:佐世保市のダムを川棚町に造るのに、川棚町の許可は要らないのですか?

高橋弁護士:要らないと思います。そのために土地収用法があるので。

Cさん:では、市が他所の自治体に造るのに、その自治体の許可は要らないのですね?

高橋弁護士:川棚町は川棚川の洪水被害の軽減のために石木ダムを造るということになっているので、川棚町も認めているわけです。

馬奈木弁護士:制度的にはその通りだが、被害を受ける住民が本気で被害を止めようとすれば、やり方はある。自分の権利は自分で守る。川棚町議会が変われば町も変わる。例えば条例を作るとか。以前、産廃問題でそういう条例を作ったこともあります。制度が間違っていれば正しい制度に作り直すとか、そういう方法もあるということを、あえて付け加えておきます。

Dさん:佐世保市は石木ダム計画の言い出しっぺなので自ら止めることはしないだろう。一方、川棚町は県や佐世保市の言いなりになっているが、町民はまた違うと思う。町議会への働きかけなどについて石丸さんはどのように考えておられるか、聞きたい。

石丸さん:こうばる住民としては、とにかく今は座り込みで精一杯。他のことをやる余裕はない。町民の会の方で、何か考えて取り組んでいるようだが・・

Eさん:これまで何度も現地に行っていますが、それは不定期で、人数も成り行きで、あまり力にはなれなかったと思う。これからは組織的にやっていきたい。例えば月曜日なら行けるとか、金曜日なら行けるとか、そういう人を集めて計画的にやりたい。そうすれば本当の支援ができると思う。行けそうな人はぜひ私まで声をかけてください。

など嬉しい提案も飛び出しましたし、
他にも様々な貴重なご意見も聴くことができました。
そして最後に弁護団長の馬奈木弁護士がまとめてくださいました。


反対するには、反対するだけの理由があります。
本来あるべき姿、それは、

政策はみんなの合意のもとに進められていくべきもの
みんなが納得してやっていくものです。
いわれもないことを強制される筋合いはありません。
断固として拒否しよう。
そして、合意を作ろう。
そのために、力を合わせて頑張ろうではありませんか。