工事差止訴訟 270人が上告

川原住民の皆さんと支援者計270人は、10月21日の石木ダム工事差止控訴審判決を不服として、最高裁に上告しました。

正確には10月29日(金)付の上告申立書が11月1日(月)に福岡高裁へ届いたということで、最高裁に届くのはまだまだ先のことです。

一審、二審と負け続け、最高裁がその判決をひっくり返してくれる可能性はかなり小さいだろうという現実は受け止めながら、それでも私たちは上告しました。

それは、泣き寝入りしたくないから。憲法に保障された私たちの人権を守るためには、人権侵害されている当事者と、それを間近で感じている者が声をあげ訴え続けなければ、人権侵害が許されてしまうから。

また、諦めたくないから。もう1つの石木ダム訴訟(事業認定取消訴訟)のように今回も最高裁は上告を退けるかもしれない。それでも、最高裁が受理する可能性がゼロではない以上、私たちは諦めない。最後まで可能性を追い続けます。

諦めないことの大切さを控訴審判決が教えてくれたました。

法廷の内外で私たちは、覚書について声をあげてきました。その声が判決文の中で活かされていたのです。今日は、その声をご紹介します。

その1.
2021年6月18日、石木ダム工事差止控訴審で地元の石丸勇さんが意見陳述。その中で石丸さんはこう述べています。

「思えば、石木ダム建設計画は、長崎県が当初から県民と住民をだまし続けながら進めて来た事業だったのです。それは石木ダムの歴史からも明らかです。
事の始まりは、1962年に地元や川棚町に無断で現地調査と測量を行いました。
1972年にはダム建設のための予備調査を地元に依頼し、「予備調査はダム建設に直接つながらない」と説明しながら、地元住民が不安と不満を表すと「地元の了解なしではダムは造らない」「一人でも反対があるとダムは造らない」などと言葉巧みに住民をなだめました。「予備調査の結果、建設の必要が生じたときは、改めて書面による同意を受けた後着手する」旨の「覚書」を交わして住民を信用させ地元を予備調査に同意させたのです。時の権力者は長崎県知事久保勘一、住民説得に自信があったのでしょう。「覚書」の精神は守られるはずでした。」

しかし、その後の経緯は、次の通り。
1982年 県警機動隊を導入しての強制測量。(高田勇知事)
2009年 強制収用に道を開く事業認定申請。(金子原二郎知事)
2015年 4世帯の農地を強制収用。(中村法道知事)
2019年 川原住民の全ての土地と家屋を強制収用(同上)

49年前の久保知事が住民と交わした覚書は、本人を含む4人の知事全てが無視をして、事業計画を強引に前に進めてきたのです。
長崎県政には、「約束を守る」というごく当たり前のモラルが欠如しているようです。

その2.
10月の控訴審判決に向けて、私たちは8月からハガキ運動に取り組みました。

何千通というハガキが福岡高裁に届いたはずです。中には、ひとこと欄にこんなことを書きましたよ!と知らせてくださる方もいました。
その中のお1人、福岡市のOさんは一言欄にこう書いて送ったそうです。

「こうばるの皆さんのふるさとと暮らしを守ってください。住民との覚書を反故にして工事を強行する長崎県の姿勢は、決して許されるものではありません。一刻も早い工事差止を切に願います。」

佐世保市のMさんも、こう書いて投函したそうです。

「県営の石木ダムは県民のために造られるはずです。住民=県民の信頼を裏切り、覚書違反のまま建設を進めるなら、それは公共事業とは言えません。まずは約束を守り住民と話し合う、そのためにも工事の差止が必要です」

その3.
ハガキは個人によるメッセージですが、公正な判決を求める声は各団体からもあがりました。その数72団体。要請書送付団体
その中には、やはり、覚書について言及している要請文もありました。
要請書(石木川の清流とホタルを守る市民の会)

「…という覚書を締結しています。しかし、今日においても、長崎県はこの覚書を無視し、約束を守っていない。さらに、中村長崎県知事は、このまま工事を進め家屋等の行政代執行も排除しないと明言していますが、現憲法下において、家族が居住する土地・家屋を行政代執行した例はありません。これを実行するとなると…」

このように、いろんな人が、覚書を無視し続ける県のやり方は許せないという想いを声に出し始めました。それがきっと裁判官に届いたのだと思います。

司法にしろ行政にしろ、弱き者の声はなかなか届きにくい。
その現実に慣らされた私たちは諦めがちになりますが、やはり、諦めてはいけない。

「約束は守りなさい」という当たり前のことを、言い続けていいんだ、言い続けるべきなんだと、今回の判決文を読んで感じました。

そして、覚書には触れていませんが、裁判官の良心に響いたであろうと思われるメッセージもいくつもありました。
裁判官だけでなく、私たち自身の心にも沁みました。その一部をご紹介します。

要請書(長崎高等学校教職員組合)
要請書(言論の自由と知る権利を守る長崎市民の会)
要請書(よみがえれ長良川実行委員会30団体)
要請書(八ッ場あしたの会)
要請書(ラムサール・ネットワーク日本)
要請書(水源開発問題全国連絡会)

ぜひご一読ください。

これらのメッセージに私たちは大きな勇気をいただきました。

今回の上告人は270人ですが、その後ろから沢山のエールが聞こえてくるようです。

私たちは皆さんとともに、最高裁へも公正な判断を求め続けます。