11水道事業者、ダム取水せず

11水道事業者、ダム取水せず 人口減や節水進み、需要予測外れる 維持費、年2億円近く

(朝日新聞2022年8月16日 5時00分)https://digital.asahi.com/articles/DA3S15388734.html?pn=3&unlock=1#continuehere

建設当時の温井ダム=1999年10月、広島県安芸太田町 

水道用水を確保するために国のダム事業に参加している全国71の水道事業者のうち、広島市など11事業者が完成後に一度も取水していないことが朝日新聞の調査でわかった。人口減少や節水が進んだことが大きい。11事業者による建設費の負担は計576億円で、維持管理費は毎年計2億円程度に及ぶ。

調査は、2021年10月時点で完成から10年以上たつ全国60カ所の国のダム事業を対象にした。朝日新聞が情報公開請求などにより、参加する自治体や広域企業団といった71事業者の取水状況を調べた。

取水がゼロだったダムの完成時期は1986年~2010年で、着工時期は70~80年代に集中していた。人口増の時期にあたり、9事業者は取材に「水需要が将来も増えると見込んでいた」(高知県宿毛市)などと回答する。北海道東川町と山形県長井市は地下水を水源としており、枯渇などに備えたという。

特定多目的ダム法では、国のダム事業に参加した場合、水を利用する割合に応じて水道事業者が建設費を負担。維持管理費の負担も義務づけられ、全11事業者は取水ゼロのまま国へ維持管理費を支払い続けている。金額は年間で数十万円~1億円超と幅がある。

広島市は、国が2003年に完成させた温井ダムで、水道用水確保のため、ダム建設の総事業費の2割にあたる365億円を負担した。維持管理費として毎年約1億円を支払い続けているが、これまで取水実績はゼロだ。

市によると、ダム事業への参加を決めた79年には、企業の進出や人口増を見込み、将来的に市内で1日最大68万立方メートルの需要があると予測していたが、90年度の54万立方メートルをピークに需要は減った。20年の給水実績は41万立方メートルだった。ただ、市水道局の担当者は「安定供給のための予備の水源として引き続き確保していく」と話す。

他の事業者も「災害、渇水などに備え、維持費を負担している」(北海道旭川市)といった声が多い。

厚生労働省によると、全国の上水道の使用量は減る傾向にあり、00年のピーク時に比べて15年は8%少ない1日あたり3600万立方メートルだった。人口減と節水が進み、40年には00年比で3割減ると見込んでいる。

水道事業に詳しいコンサルティング会社「EY Japan」の福田健一郎氏は「ダムの維持管理費に加え、今後は老朽化した水道管の更新費用がのしかかる。水道事業者は経営の合理化に向け、広域化などを進めるべきだ」と話す。

■治水に活用へ転換

将来も利用が見込めないため、ダム事業から撤退した事業者もある。

盛岡市は20年、国の御所ダムの水を使う権利を国に返した。80年代に権利を得たが、需要が伸びなかった。維持費が毎年500万円程度かかっていた。返還できたのは、半導体製造などの工業団地で水の利用を見込んでいた岩手県が「引受先」になってくれるなど条件が整ったためだ。

国交省は取水の有無に関係なく維持費はかかるため、「単純な返還は難しい」(水管理・国土保全局)と説明する。国の認可を得ればダムの使用権を返上できるが、返還が実現したのは17年度以降の5年間で、御所ダムを含め4件にとどまる。引受先が見つかったことや事業者の統廃合などが理由だった。

国は19年12月、利水目的のダムについても、治水に活用する方針を決めた。水道用水の安定供給などが目的のダムを改修し、治水にも使えるようにする。

京都大学防災研究所の角哲也教授は「人口が減る中、利水事業にも見直しが必要だ。逆に大規模水害への備えが重要性を増している。ダムの利用目的に応じて、水道事業者の負担を見直す仕組みを国は検討すべきだ」と話す。(座小田英史、女屋泰之)