石木ダム利水の再評価 第1回

1月21日、佐世保市の最重要課題である石木ダム建設について、再評価審議が行なわれました。

今回は1回目で、水需要予測についての審議でしたが、予想通り、結果はこれまでと変わらず「4万㌧の水源不足」であり、その結果に辿り着くために、随所で水増し手法が駆使されていました。

その本題に入る前に、まず述べておきたいことがあります。
それは、この委員会の公開のあり方でです。

国が定める再評価実施要領には「審議過程の透明性を確保」するよう明記されていますが、佐世保市は別室での傍聴しか認めませんでした。それは何故なのでしょう?県の再評価審議は毎回、同室で傍聴できますし、佐世保も過去はそうでした。前回からこのような異例の形となったのです。

私たち6団体(佐世保市内5団体+公正な再評価を求める市民の会)は、事前に同室での傍聴を求める要請書を提出し、それが叶えられない場合には理由を示してほしいと書いていましたが、回答書には理由についての説明はなく、

とだけ書かれていました。

しかも、審議が行なわれる隣室に通じる廊下には衝立で通行を遮断し、


廊下に通じる傍聴室のドア(左奥)も使えないようテーブルでバリケードという物々しさでした。

なぜ、これほど市民を遠ざけるのでしょう?新聞報道によると、水道局は「委員に自由闊達に意見を出してもらうため」と説明したそうですが、市民がいると自由闊達に意見が言えないと委員がおっしゃっているのでしょうか?

石木ダムの事業費の多くは市民が支払っている水道料金から出ています。その市民に、なぜ水需要が増えるのか、水道局には説明責任があるし、委員の皆さんも、その予測に自信を持って賛同するなら、1人でも多くの市民に聞いてほしいと思われるのではないでしょうか?

私たちは他にも4つほど要請しましたが、その中の1つ「録音録画を認めてほしい」については、「県の再評価に準じて控えさせていただきたい」との回答でした。

県に準じるのなら、傍聴も同室にすべきだし、議事録も公開すべきです。県は再評価の度に議事録を公開してるし、国の実施要領にもそうするよう書かれています。しかし、佐世保市が公開するのは議事要旨だけ。

さて、本題の水需要予測について、まず、資料を掲載しておきます。

これは佐世保市のホームページにもアップされています。

・資料1 isikisaihyouka-1.pdf

・資料2 isikisaihyouka-2.pdf

・議事要旨 gijiyousi.pdf

3時間超に及ぶ委員会で、かなり丁寧な説明が水道局職員からなされ、委員からも多くの質問が出され、そういう意味では県の再評価審議よりも「自由闊達」だったかもしれません。しかし、その結果は、市民感覚とは大きくかけ離れた水増し予測にお墨付きを与えるものとなりました。

例えば、佐世保地区の20年後の1日の有収水量の予測は、

こんな予測がどうして信用できるでしょう?

佐世保の人口はどんどん減り続け、日本経済全体も停滞しているのに、佐世保だけが経済が活性化し、それに伴い水需要が増えるなんて・・まさに絵に描いた餅です。

他にも疑問はたくさんあります。一度には書き切れないので、後日、続きをアップする予定です。また、「市民による石木ダム再評価監視委員会」(市民委員会)には利水の専門家も2人いらっしゃるので、来月開催予定の市民委員会の場で、しっかり分析評価していただけるでしょう。乞う、ご期待!

それにしても、委員の皆さんは、佐世保市水道局の予測が過大だという認識は全くなく、逆にもっと増やすべきだという意見も出ていました。不思議に思っていましたが、前回の経営検討委員会の資料を見れば、納得です。

この発想にも強い違和感を覚えます。私たち市民は特別な節水などしていません。今後ますます人口は減るのに、水需要を無理に増やそうというのが理解できない。右肩上がりの昭和の時代の考え方であり、21世紀の今は、限りある資源を大切に使い、持続可能な社会を目指そうという時代。SDGsの理念に逆行する考え方です。

とはいえ、このような考え方(今が底で、これからは、やり方次第で水需要は増えていくだろう)は佐世保だけではないようです。同様の発想でたくさんのダムが造られましたが、中には、水需要が伸びず、巨額の投資をしたのに、ダムの水を1滴も取水していない自治体がたくさんあります。

2022年8月の朝日新聞によると、国のダム計画に参画した71の水道事業者(自治体)のうち11の自治体(15%!)が完成後1滴も取水していなかったそうです。

例えば、広島市。温井ダムの建設費として365億円も負担したのに、完成して19年、1滴も取水していないそうです。維持費として毎年1億円以上払い続けているなんて・・

また、これは国営ダムだけに関するデータなので、それ以外の県営ダムなどを含めるともっとたくさんあります。

日本一の大きさを誇る徳山ダム(水資源機構ダム)も同様。徳山ダムは、名古屋市・愛知県がダムの水を使うことを前提に、総事業費3500億円をかけて建設されましたが、2008年完成以来、その建設費負担をしている名古屋市・愛知県は一滴もその水を使っていないそうです。

需要予測がいかに杜撰だったか・・・そのツケを支払うのは、いつも市民県民、そして、未来の人たちです。

そのような杜撰な予測を見抜き、見直しや中止をさせるために、この再評価制度が生まれたはずですが、全く機能していません。なぜでしょう?

最近、中居正広さん問題で、フジテレビの対応が注目されています。最初の会見で社長は第三者委員会を設置すると発表しましたが、それが「日弁連のガイドラインに基づく第三者委員会」ではないと分った時点から批判が殺到し、「日弁連のガイドラインに基づく第三者委員会」に変更されました。

日弁連(日本弁護士連合会)が示す第三者委員会とは、「企業等から独立した委員のみをもって構成される」ものであることが大原則です。そうでなければ、企業に忖度した調査になりかねないからです。

今回の佐世保の再評価を担った経営検討委員会は、第三者どころか、水道局に付属した委員会です。どうして、独立した判断、評価ができるでしょう?

そこを私たちは昨年6月から問い続け、市議会に請願したり、市長宛に要請書を提出したり、記者会見も開いてきましたが、力不足で、何も変えることはできませんでした。

このような再評価のあり方を許していては、制度の意義は果たされません。

どうしたらまともな再評価が実施されるか、アイデアをお持ちの方がいたら教えていただきたい・・と切に思います。

山の田ダムの図面発見!

こちらは、2018年9月に発行された「水道局だより臨時号」。

この古い取水バルブの写真、佐世保市民の方はご存じでは?広報誌や市政チャンネルで度々紹介されていた山の田ダムの錆び付いたバルブです。

このように佐世保のダムは古い。
→補修工事や堆積土砂の浚渫工事が必要。
→でも、今はできない。なぜなら、戦前のダムは図面が残っていない。
→元の地形が分らないのでダム湖を空にしなければ工事ができない。
→ダム湖を空にすると水源不足となり、給水に支障をきたす。
→石木ダムができれば、水源に余裕が生まれ工事ができる。

数年前から水道局は、このような説明に力を入れてきました。それは、「将来水需要が増えるので石木ダムが必要」という説明は、もう通用しなくなったからです。(水需要の実績値は減少の一途)

議会でも当時の谷本水道局長がこのように答弁しています。(2018年12月)

2023年1月、「佐世保の水源対策勉強会」に対する水道局事業部水道施設課長の回答も同様でした。

ところが、その無いはずの図面が有った!のです。正確には、図面が掲載された資料を発見したのです。

その資料の表紙がこちらです。

佐世保市教育委員会が2016年に発行した山の田ダム(1908年竣工)の調査報告書で、ダム堰堤と取水塔の設計図でしょうか、細かな図面が表紙を飾っています。

裏表紙には、設計図の他に、部品(ボルト等)の個数や重さなどの一覧表も見えます。


本文には様々な図面が・・・

図版目次はこちら。

素人にはよく分らないので専門家に見ていただきました。

お2人のコメントも含めて「石木ダム勉強会」で報告したところ、皆もびっくり!

え?どういうこと?
図面は焼失したというのは嘘だったの?
なぜ隠す必要があるの?水道局は浚渫工事をしたくない?
石木ダムが必要という根拠の一角が崩れるから?

あえて水道局の立場に立って代弁するなら、全部焼けてしまったというわけではないが、ほとんど残っていないという意味だった、のかもしれません。

こちらは「佐世保市水道局蔵」と書かれた図面です。

こちらは、おそらく裏表紙に書かれていた防衛省防衛研究所蔵の図面でしょう。
確かに佐世保市水道局蔵のものは掠れて見にくいですし、数字等が読み取れないのかもしれません。

しかし、防衛研究所には、明瞭な設計図等が多数保存されていたのです。それを佐世保市教育委員会が掲載しているのです。水道局が本気で山の田ダムの浚渫や補修改修をしたいと思うなら、防衛研究所から図面を入手すればいいではありませんか。

いずれにしても、図面は存在しているのです。この事実を知った私たちは、佐世保市民に伝えたいと思いました。どうすれば広く伝えることができるか話し合いました。

これまでの経験でチラシ配りなどではごく少数にしか伝えられないし、SNSに発信にしても信憑性を疑われるかもしれないし・・やはり、新聞テレビ等、報道機関に頼るのがいいのではないか。

記者の皆さんなら、広い人脈や知識を駆使して、あちこちに取材し、この資料の重要性や、これまでの水道局の説明との関係性など、適切に伝えてもらえるのではないか。

ちょうど再評価に関する要請書提出の件で1月9日に記者会見を予定していたので、その席で発表しよう、ということになりました。

ところが・・・
記者の皆さんはあまり驚くこともなく、質問も、これをなぜ経営検討委員会に送ったのかとか、水道局には確認したのかとか・・予想外の反応でした。案の定、当日や翌日のTV新聞で、この件を報じたところはありませんでした。
(1人だけ、この資料を貸してほしいと持ち帰った記者がいましたが)

そう言えば、宮本さんの講演で、県の嘘(川棚川流域に当時雨量計がなかったから佐世保のデータを使ったと説明していたが、実は雨量計は有った)が明らかになったときも、それを報じたのは1社だけでした。

私たちが考える「知るべき&知らせるべき情報」と、記者さんたちの考えるそれとは、かなりズレがあるようです。このズレは年々大きくなっているように感じるのは気のせいでしょうか?

だとしても、幸い今は誰もが発信できる時代です。

この図面発見!が重要な情報だと感じた方は、拡散していただければ有り難いです。

皆さんのご協力をお願いします。

7団体が、石木ダム再評価について要請

2024年度は石木ダム事業再評価の年であり、治水面での再評価は既に終了し、10月には長崎県から国土交通省に結果(事業継続)が報告されましたが、利水面での再評価は、これから佐世保市において始まります。

県の再評価は、あまりにもお座なりなものでした。

長崎県公共事業評価監視委員会(県委員会)は、県から示された対応方針(工期を7年延長し、事業費を1.5倍に増額し事業継続する)を、わずか2時間15分の審議時間(県による説明時間1時間21分+実質審議時間54分)で承認してしまったのです。

公金投入を135億円も増やし、工期延長も10回目という驚くべき方針が提示されたにもかかわらず、ほとんど議論らしい議論はありませんでした。つまり、結果有りき、県にお墨付きを与えるために開かれた委員会だったと言ったら、言い過ぎでしょうか?

佐世保で行なわれる再評価は、このようなものであってはいけない。
佐世保が負担する事業費の多くが水道事業会計から支出されています。これ以上の負担は水道会計を圧迫し、水道料金の値上げか、水道管の更新や施設の維持管理等やるべき対策費が削られる可能性が大であります。
これからの佐世保市にとって石木ダムが本当に必要なのか、あらゆるデータや資料と睨めっこして、じっくり審議してもらいたい。そして、そのデータ等の分析解釈は専門家でなければ難しいでしょう。ぜひ水道事業やダム事業の専門家の意見にも耳を傾けてほしい。形だけでなく、真剣で真摯な議論をしてほしい。

そのような思いから、1月9日、石木川まもり隊など合計7つの団体が、佐世保市や佐世保市上下水道経営検討委員会に対して要請書を提出しました。

要請書は全部で4つあり、宛先も提出団体もいろいろなので、整理しますと・・

A:6つの市民団体から佐世保市長と水道局長へ。要請書

B:6つの市民団体から「佐世保市上下水道経営検討委員会」へ。要請書

C:「市民による石木ダム再評価監視委員会」から「佐世保市上下水道経営検討委員会」へ。要請書

D:「石木ダム勉強会」から「佐世保市上下水道経営検討委員会」へ。要請書

AとBの要請事項は全く同じもので、再評価の審議を完全公開することや、専門家を招いて意見を聴いてほしいといった内容です。なぜ市と委員会と両方に送ったのか。それは・・

水道局長は12月議会で、再評価の審議にあたって専門家の意見を聴く必要は無いと答弁しましたが、審議のあり方を決めるのは委員自身であり、行政の意向で運営されるべきものではありません。それは国が定めた「再評価実施要領」に明記されていますし、また「佐世保市上下水道経営検討委員会条例」の第7条にも「必要に応じ委員以外の者に、会議への出席を求め、その意見若しくは説明を聴き、又は資料の提出を求めることができる」と書かれています。

過去の再評価委員会では委員から「行政側の資料に疑問を感じても、専門家ではない自分には反論が難しい」との意見も出されていました。このような声を参考に、委員会の委員自身がその必要性を感じていただきたいと思い、委員宛に送りました。

一方、委員会が専門家の招聘を求めたとき、実際に段取りをするのは水道局なので、やはり市側にも要請しておくべきだと考え、両方に提出しました。

Cは昨年7月に発足した委員会です。私たちは県に対し、専門家を招いてほしいと再三要請しましたが全く受け入れてもらえず、それならば…と、専門家の皆さんに呼びかけたところ、7名の方々の賛同をいただき、2名の公募委員と合わせて9名からなる委員会です。(プロフィール

県に対しては、意見書を提出したり、説明を求めたりしていますが、今回、佐世保の再評価審議が始まる前に、経営検討委員会に対して要請書を送ることになりました。内容は水需要予測や保有水源、費用対効果の算出方法について、適切な情報公開と審議を求めています。

Dは、石木ダム勉強会が独自に経営検討委員会に送ったもので、ここには非常に重要な新たな情報が提供されています。(これについては、次回また詳しく報告します)

市長宛の要請書を秘書課長に手渡した後、記者会見を行い、各団体から要請書についての説明等行ないました。市民委員会からは副委員長の宮本博司さんがオンラインで参加してくださいました。

共同通信、長崎新聞、西日本新聞、毎日新聞、NHK、NBC、KTNの7社が参加し、4社が報道。NHKはNEWS WEBでも配信。

石木ダム建設の再評価を 市民団体が佐世保市長らに要望書提出|NHK 長崎県のニュース

記者の皆さんが多数集まってくださったのは良かったのですが、ただ1つ残念なことがありました。記者からの質問の中で、市民委員会の委員について「反対派ですよね」と確認する場面がありました。

それに対し宮本副委員長は「賛成反対以前に、事業の進め方がおかしい、事業計画に疑問点が多い。だから、それについてまずきちんと議論してもらいたい、ということです。反対派という立場で参加しているわけではありません」と明確に回答されました。

全くその通りだと思います。賛成派、反対派とレッテル貼りすることは、分断を生み、話し合いや歩み寄りを妨げることになります。

少なくとも再評価においては、記者の皆さんも先入観を捨て、資料や意見の中見に注目していただくよう、願っています。