やる気と覚悟

2月21日午後、市役所4階の会議室では、佐世保市上下水道経営検討委員会委員長が石木ダム再評価に関する答申書を読み上げていましたが、隣室のモニター画面で、その様子を見守りながら、私の中にはモヤモヤとした違和感のようなものが広がっていました。

答申書を読み上げる委員長の声は、時に大きく、時にゆっくり、

などと部分的に強調されていました。

委員長ご自身が

とおっしゃっていましたが、再評価の答申として、まずそこに違和感を感じます。

再評価の趣旨は、長引く公共事業について、かつては必要だったが今はどうなのか?今後の見通しはどうなのか?客観的に事業を検証し対応を判断するためのものです。

その役目を担った委員会なのに、「事業継続」との結論を述べた後に、延々と事業の遅れや、それによる不利益を述べ、やる気がない!と行政を叱咤し、もしもの場合は県に責任を取らせることも示唆する内容でした。

それはまるで石木ダム促進派議員による演説のようでした。

3年ほど前、当時の朝長市長は市議団を率いて何度も県庁を訪ね知事に「政治決断」を迫っていましたし、2年ほど前からは佐世保市選出の県議たちが知事に「団結小屋の行政代執行」を求めたりしてきましたが、そのシーンを思い出してしまいました。

50年経っても実現しない事業をさらに延長するなんて、その上事業費を5割増とするなんて…一般企業ではあり得ないことが、なぜ公共事業だとあり得るのでしょう?

それは税金や水道料金などの公金で賄われているからですよね。納税者であり水道使用者である私たち市民が石木ダムの利水事業費を支払っている。だから佐世保市民は石木ダム再評価の審議を見守る権利と義務があるはず。なのに、佐世保市はそんな市民を蚊帳の外に追い出して審議を実施しました。

国土交通省の再評価実施要領には「審議方法は、各事業評価監視委員会が決定する」と書かれているので、別室での傍聴を決めたのは委員会自身だと市は言うかもしれませんが、そのような委員を選出した市水道局です。

いったい誰のための公共事業なのでしょう?

過去の再評価実施状況を見てみると、

このように、以前は再評価の度に評価監視委員会を設置していましたが、

第4回から佐世保市上下水道経営検討委員会に諮問するようになり、傍聴者への公開のあり方が大きく変わってきたのです。

再評価実施要領に、「再評価にあたっては事業評価監視委員会を設置し、その意見を聴き、それを尊重する」とあるのは、長引く公共事業について、このまま事業を続けていくことが妥当かどうかを判断するには、事業者本人や事業者の関係者では客観的な評価ができないからです。行政は一度やると決めたら、なかなか方向転換できない体質?を持っています。だからこそ、第三者機関にしっかり検証検討させ、その判断を尊重させようと決められたのだと思います。

そのことについて私たちは、昨年から議会に請願したり、市長に要請書を提出したりして、まともな第三者委員会の設置を求めてきましたが、全て却下されました。経営検討委員会に諮問するのは全く問題ないとの回答でした。

でも、そうではなかった。やはり、問題だらけだということが、この答申書で明らかになりました。

佐世保市は、水道局に付属する経営検討委員会に諮問するのは今回が最後にすべきです。

同市民委員会からは、経営検討委員会の答申書が提出される前に、経営検討委員会にも佐世保市にも意見書が提出されましたが、それが活かされることは残念ながらありませんでした。

経営検討委員会への意見書  

佐世保市長&水道局長への意見書 

異常だと批判しながら「事業継続」?

佐世保市による石木ダム再評価2回目の委員会審議が2月14日に行なわれました。


今回の注目点は「代替案」と「費用対効果」でしたが、どちらも5年前の再評価と同様に、「石木ダムに代わる代替案は無い」「B/C(費用対便益比)=5.5」として、その結果、石木ダム事業継続という市の対応方針案を妥当と結論づけました。

多くの委員が50年経ってもできない石木ダム、10回も工期延長してきた石木ダム、それを「異常な公共事業」だと指摘しながら、それでも継続するという。その論理が理解できません。

まとめ役の委員長(横山均:県立大教授)は、「茶番」とか「やること自体が無駄」とか「川棚町民がかわいそう」とか・・ところどころ聞こえてくるのですが、声が小さくて全体としては意味不明でした。

内容について少し記しておきます。
資料は、水道局のHPにアップされています。
saihyouka214.pdf

まず、代替案について、市は今回も「石木ダム以外のダム建設、地下水取水、海水淡水化など14項目について検討したが、結果はいずれも不適」という結果。その理由は法的に無理、地形的に無理、コスト的に無理等々。ですが、本当にそうでしょうか?

2022年12月5日の県議会議事録には、奥田土木部長が答弁でこう述べています。

次に、費用対効果=費用対便益=B/Cについてですが、今回も現実を無視した机上の計算により、便益=渇水被害額がめちゃくちゃ大きく算定されています。

信じられます? 確か昨年度の佐世保市水道事業の事業収入は約61億円でしたが、その倍近い被害が発生するなんて?!

その計算式も根拠となるデータも示されていないのに、委員の方々はそれをスルーしてしまわれました。

なぜ、このように被害額が大きくなるのか?

今回の算出根拠となるデータは公開されていないので、過去のデータで見てみましょう。前回のB/C=5.4で、今回とほぼ同じなので参考になるはずです。その資料

https://www.city.sasebo.lg.jp/suidokyoku/suikik/documents/siryouhenn_151-200.pdf

こちらの31p「表-5.10被害額の集計」を見ると、

その根拠は、21pの「表-5.1生活用水の被害額」に示されています。つまり市は、

これではホテルも美容院も銭湯も営業できず被害額が膨れ上がるのは当然ですね。

このようなあり得ない虚構の給水制限率を設定することが大間違いであり、オオボラフキもいいとこですが、なぜそんなことになるのか?

それは、①水需要予測が過大②保有水源は過小に見積もっているからです。

前回再評価時における予測では、

と算定しているので、これでは給水制限が度々発生することになります。

なので、実際には何も渇水被害は起きていません。

石木ダム利水の再評価 第1回

1月21日、佐世保市の最重要課題である石木ダム建設について、再評価審議が行なわれました。

今回は1回目で、水需要予測についての審議でしたが、予想通り、結果はこれまでと変わらず「4万㌧の水源不足」であり、その結果に辿り着くために、随所で水増し手法が駆使されていました。

その本題に入る前に、まず述べておきたいことがあります。
それは、この委員会の公開のあり方でです。

国が定める再評価実施要領には「審議過程の透明性を確保」するよう明記されていますが、佐世保市は別室での傍聴しか認めませんでした。それは何故なのでしょう?県の再評価審議は毎回、同室で傍聴できますし、佐世保も過去はそうでした。前回からこのような異例の形となったのです。

私たち6団体(佐世保市内5団体+公正な再評価を求める市民の会)は、事前に同室での傍聴を求める要請書を提出し、それが叶えられない場合には理由を示してほしいと書いていましたが、回答書には理由についての説明はなく、

とだけ書かれていました。

しかも、審議が行なわれる隣室に通じる廊下には衝立で通行を遮断し、


廊下に通じる傍聴室のドア(左奥)も使えないようテーブルでバリケードという物々しさでした。

なぜ、これほど市民を遠ざけるのでしょう?新聞報道によると、水道局は「委員に自由闊達に意見を出してもらうため」と説明したそうですが、市民がいると自由闊達に意見が言えないと委員がおっしゃっているのでしょうか?

石木ダムの事業費の多くは市民が支払っている水道料金から出ています。その市民に、なぜ水需要が増えるのか、水道局には説明責任があるし、委員の皆さんも、その予測に自信を持って賛同するなら、1人でも多くの市民に聞いてほしいと思われるのではないでしょうか?

私たちは他にも4つほど要請しましたが、その中の1つ「録音録画を認めてほしい」については、「県の再評価に準じて控えさせていただきたい」との回答でした。

県に準じるのなら、傍聴も同室にすべきだし、議事録も公開すべきです。県は再評価の度に議事録を公開してるし、国の実施要領にもそうするよう書かれています。しかし、佐世保市が公開するのは議事要旨だけ。

さて、本題の水需要予測について、まず、資料を掲載しておきます。

これは佐世保市のホームページにもアップされています。

・資料1 isikisaihyouka-1.pdf

・資料2 isikisaihyouka-2.pdf

・議事要旨 gijiyousi.pdf

3時間超に及ぶ委員会で、かなり丁寧な説明が水道局職員からなされ、委員からも多くの質問が出され、そういう意味では県の再評価審議よりも「自由闊達」だったかもしれません。しかし、その結果は、市民感覚とは大きくかけ離れた水増し予測にお墨付きを与えるものとなりました。

例えば、佐世保地区の20年後の1日の有収水量の予測は、

こんな予測がどうして信用できるでしょう?

佐世保の人口はどんどん減り続け、日本経済全体も停滞しているのに、佐世保だけが経済が活性化し、それに伴い水需要が増えるなんて・・まさに絵に描いた餅です。

他にも疑問はたくさんあります。一度には書き切れないので、後日、続きをアップする予定です。また、「市民による石木ダム再評価監視委員会」(市民委員会)には利水の専門家も2人いらっしゃるので、来月開催予定の市民委員会の場で、しっかり分析評価していただけるでしょう。乞う、ご期待!

それにしても、委員の皆さんは、佐世保市水道局の予測が過大だという認識は全くなく、逆にもっと増やすべきだという意見も出ていました。不思議に思っていましたが、前回の経営検討委員会の資料を見れば、納得です。

この発想にも強い違和感を覚えます。私たち市民は特別な節水などしていません。今後ますます人口は減るのに、水需要を無理に増やそうというのが理解できない。右肩上がりの昭和の時代の考え方であり、21世紀の今は、限りある資源を大切に使い、持続可能な社会を目指そうという時代。SDGsの理念に逆行する考え方です。

とはいえ、このような考え方(今が底で、これからは、やり方次第で水需要は増えていくだろう)は佐世保だけではないようです。同様の発想でたくさんのダムが造られましたが、中には、水需要が伸びず、巨額の投資をしたのに、ダムの水を1滴も取水していない自治体がたくさんあります。

2022年8月の朝日新聞によると、国のダム計画に参画した71の水道事業者(自治体)のうち11の自治体(15%!)が完成後1滴も取水していなかったそうです。

例えば、広島市。温井ダムの建設費として365億円も負担したのに、完成して19年、1滴も取水していないそうです。維持費として毎年1億円以上払い続けているなんて・・

また、これは国営ダムだけに関するデータなので、それ以外の県営ダムなどを含めるともっとたくさんあります。

日本一の大きさを誇る徳山ダム(水資源機構ダム)も同様。徳山ダムは、名古屋市・愛知県がダムの水を使うことを前提に、総事業費3500億円をかけて建設されましたが、2008年完成以来、その建設費負担をしている名古屋市・愛知県は一滴もその水を使っていないそうです。

需要予測がいかに杜撰だったか・・・そのツケを支払うのは、いつも市民県民、そして、未来の人たちです。

そのような杜撰な予測を見抜き、見直しや中止をさせるために、この再評価制度が生まれたはずですが、全く機能していません。なぜでしょう?

最近、中居正広さん問題で、フジテレビの対応が注目されています。最初の会見で社長は第三者委員会を設置すると発表しましたが、それが「日弁連のガイドラインに基づく第三者委員会」ではないと分った時点から批判が殺到し、「日弁連のガイドラインに基づく第三者委員会」に変更されました。

日弁連(日本弁護士連合会)が示す第三者委員会とは、「企業等から独立した委員のみをもって構成される」ものであることが大原則です。そうでなければ、企業に忖度した調査になりかねないからです。

今回の佐世保の再評価を担った経営検討委員会は、第三者どころか、水道局に付属した委員会です。どうして、独立した判断、評価ができるでしょう?

そこを私たちは昨年6月から問い続け、市議会に請願したり、市長宛に要請書を提出したり、記者会見も開いてきましたが、力不足で、何も変えることはできませんでした。

このような再評価のあり方を許していては、制度の意義は果たされません。

どうしたらまともな再評価が実施されるか、アイデアをお持ちの方がいたら教えていただきたい・・と切に思います。