8月2日、長崎県公共事業評価監視委員会(県委員会)は、石木ダム事業の工期7年延長(2032年度完成)と、事業費を1.5倍とする(285億円→420億円)県の方針案について審議し、どちらもすんなり受け入れ、事業継続を承認しました。
委員会の正味の時間は、2時間15分。うち事業者である長崎県(土木部河川課)からの説明時間は1時間21分で、委員による審議時間は54分でした。
135億円もの事業費の増額が県民や、取り分け佐世保市民にどれだけ大きな負担をもたらすか、また、事業継続による取り返しのつかない人権侵害や環境破壊についての認識があれば、これほど短時間の審議で結論が出せるはずはありません。
やはり今回の再評価も、「開会前から結論は決まっている」との噂通り、県にお墨付きを与えるための委員会だったのでしょうか。
「市民による石木ダム再評価監視委員会」(市民委員会)が事前に提出していた「評価のポイント」は、県にも委員会にも全く無視されてしまいました。
県はそれらのポイントについて説明資料を出すこともなく、また、委員会はそれらについて質問することもなく…
県の説明資料はこちらです。20240802 長崎県公共事業評価監視委員会資料
遠方(関東や関西)から傍聴に来ていた市民委員会の専門家は「こんな委員会なら傍聴に来る必要は無かった」「どっと疲れが出てしまった」と本音を漏らしておられました。
ただ、県も県委員会も、市民委員会からの要請事項の一部には応えていました。
その要請事項とは、県知事宛には以下の3点で、
1.十分で正確な資料の公表と説明
2.ダム/ダム問題の専門家の活用
3.石木ダム事業の特殊性の重視
県は、その中の「2.専門家の活用」に着目し、京都大学防災研究所水資源環境研究センターの角哲也(すみてつや)特定教授からご意見をいただいたとして紹介しました。
しかし、それはただ「石木ダム事業の優位性を認める」とか「県の検討結果は概ね妥当」とするもので、具体的な根拠は何もありません。
意見書が添付されているわけでもなく、河川課職員がただ口頭で紹介しただけ。正にアリバイ作りのコメントに過ぎません。
県は、角さんの肩書きを黄門様の印籠のように差し出せば、県委員会の皆さんだけでなく、市民委員会も納得するとでも思ったのでしょうか?知る人ぞ知る典型的な○○学者の角さんがお墨付きを与えても、専門家には通用しないのに…。
また、県委員会は、提言書の「3.地元住民からのヒアリング」を意識してでしょうか、委員会の終了直後に、副委員長が声を上げ、「いろんな意見が出ているので、県の方は、技術的な問題についてもう少し説明が必要ではないか。この委員会ではなく、別の場で、もっと住民との対話も進めてほしい」とコメントしました。
一部から拍手も起きましたが、それには「ハテ?」と思ってしまいました。
「いろんな意見が出ているので、技術的な問題について県に説明を求める」のが公共事業評価監視委員会の役目であり、それらの「いろんな意見」と県の説明とどちらが正しいのか判断するのが再評価の場のはずですが…。
知事と住民の対話が中断されているのは、知事が「石木ダムの必要性については司法の判断も出ているのでもう話し合う必要はない。これからは生活再建の話をしよう」という姿勢だからです。
住民の皆さんが座り込みを休んで県委員会を傍聴に来たのは、「私たちに代わって石木ダムの必要性について、しっかり議論してくれるのではないだろうか」という期待があったからです。それを「別の場で…」なんて、とんでもない話です。
私たち「石木ダム事業の公正な再評価を求める市民の会」も同じ思いです。このような結果をある程度予測して、準備していた抗議声明を共同代表(深澤 奨)が直後に読み上げました。
「委員会は県の御用機関ではない。事業を厳しくチェックする本来の職責を十分果たしてほしい」と。
委員6人(7人中1人欠席)の方の心に届いたと思いたいのですが…
委員だけでなく、多くの方に伝えたいので、その全文をここに記載します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
緊急抗議声明
私たち「石木ダム事業の公正な再評価を求める市民の会」は、本日8月2日、県公共事業評価監視委員会が、県の求めるままに事業費増額と工期延長を承認したことに、深い憂慮を覚え、抗議するとともに、行政代執行という最悪の事態に立ち至らないよう、ここに強く要請をします。
私たちはこの度の事業再評価に当たって、ダムに関する専門家の意見を聴いて審議に反映させることと、委員による視察で現地の状況と住民の声を確認することを、絶対に欠かせない判断材料であるとして、その実現を求めてきましたが、聞き入れられませんでした。また、専門家を交えた「市民による石木ダム評価監視委員会」が提言した審議の重要なポイントについても取り上げられませんでした。県の説明も、自らに都合のよい御用学者の言葉だけを紹介する不誠実極まりないもので、結果、県の資料と説明を鵜呑みにした委員会の審議は、とても公正とは言い難いものでした。
このままでは、県は「委員会からお墨付きを得た」として、現に居住する13世帯もの住民を強制排除する行政代執行へ突き進む可能性が高まります。それは県政史上はもちろん、現憲法下では全国でも例を見ない重大な事態であり、委員会のお一人お一人がその道を開いたことになるのだということをしっかり胸に刻み、その責任をわきまえていただきたいと思います。
私たちは、委員の皆様の良心を信じて、以下の要請をします。委員会は石木ダム事業の抱えている問題の特殊性と重大性に鑑みて、本日取り上げられなかった問題点を専門家とともに改めて審議する場を一日も早く実現するように努めてください。その際は、現地視察と住民の声聴き取りの機会をぜひ設けてください。
公共事業評価監視委員会は県の御用機関ではありません。県民の負託に応え、事業を厳しくチェックする本来の職責を十分に果たされるよう心から要請します。
2024年8月2日
石木ダム事業の公正な再評価を求める市民の会