処分をめぐる4つの不思議

長崎市内の小学校教諭による「処分取り消しを求める審査請求」が、いま話題になっています。

この件は石木ダムが根っこにあり、なおかつ当ブログにも関係することですが、当事者として発信することで、今後の審査に影響が出るのを恐れ、発信を控えていました。

しかし、マスコミ報道の中には誤解を与える部分もあり、やはり正しい情報をお伝えしたい。その上で、この問題を多くの人に考えてほしいと思いました。

11月9日、審査請求をおこなった教諭は弁護士とともに記者会見を行いました。
それを伝えるマスコミ報道の中で、ネット上で確認できるのはこちらの4つです。

毎日新聞 「長崎市教委は処分取り消しを」 小学校教諭が審査請求
https://mainichi.jp/articles/20211110/ddl/k42/040/330000c

長崎新聞 児童の石木ダム感想文提供 長崎市教委が訓告 教諭側「無効」求め市公平委に審査請求
https://nordot.app/830974288328048640?c=39546741839462401&fbclid=IwAR30_0WPAdZ0C1vNoyaW1kvK5rBNJuHR0swvnjDa4Jk8P2Ze8byMZTfiFoM

NCC 石木ダム見学企画した教諭が文書訓告処分とした長崎市教委に対し処分不当の審査請求
https://news.yahoo.co.jp/articles/c30dde9944ae884948fe308a2e6bfb521319cdad

NHK 石木ダム見学の感想文めぐり教員処分 取り消し求める審査請求
https://www3.nhk.or.jp/lnews/nagasaki/20211109/5030013234.html

読者は、まず見出しを見ます。その見出しに興味や重要性を感じて初めて本文を読もうとするので、見出しは重要です。
その見出しに、今回は誤解や先入観を与えるものが多く、それが残念でした。

「石木ダム感想文」とか「石木ダム見学の感想文」とか書かれていますが、そうではありません。
児童が書いたものは「社会科見学の感想文」です。

まだできてもいない「石木ダム見学」など、とんでもありません。

このように、見出しだけを見ると、この社会科見学の目的が石木ダム問題に特化していて、感想文も石木ダムについて書かせたかのような印象を与えています。先生が偏向教育をおこなっていたかのように誤解した人もいたのではないでしょうか。

見出しだけでなく、本文にも、「教諭は昨年11月11日、担任のクラスを含む6年生を引率し、県と佐世保市が石木ダム建設を計画する同町川原地区を訪問。建設に反対する住民から話を聞くなどした。」と書かれた記事さえありますね。

しかし、事実は違います。「男性教諭は2020年11月11日、当時勤務していた市立矢上小6年の児童約80人を対象に『自然、平和、人権を考える』を趣旨とした川原地区での社会科見学」(毎日新聞)を行ったのです。

なぜそう明言できるかと言うと、実際に感想文を読んだからです。
60数人分(参加者全員が提出したわけではなかったようです)の感想文は、決して石木ダムについてだけ書かれていたわけではありません。自然、平和、人権、3つのテーマに沿って満遍なく書いている子もいれば、2つのテーマを選んで書いている子、1つのテーマだけの子などいろいろでした。

テーマを1つに絞った子どもたちの中で一番多かったのは「自然」でした。昆虫博士と呼ばれる専門家の巧みなガイドがあったからでしょうか、こうばるの野原で捕まえたバッタやカマキリに対するワクワクドキドキ感が多くの子どもたちから伝わってきました。

この社会科見学の目的が、石木ダム問題に特化していなかったことは、子どもたちの感想文を読んだ者として伝える責任があると思い、ここに記すことでその責任を果たしたいと思いました。

ところで、報道記事に書かれている内容を時系列で整理すると、
① 2020年11月11日、市立矢上小6年の児童約80人を対象に川原地区での社会科見学を実施。
② その後、教諭は児童が書いた感想文を見学のお礼として地元住民などに手渡した。
③ 12月4日、市民グループのブログに児童の感想文が掲載されたが、校長の指示ですぐに削除された。
④ 市教委は、保護者の許諾や校長の確認がないまま学校外に感想文を提供したこと等を理由に、今年7月、教諭を文書訓告とした。
⑤ 教諭はそれを不服として10月7日長崎市公平委員会に審査請求書を提出した。
ということのようです。

この事実を知って、私は不思議に思いました。

不思議その1.
「児童が書いた感想文を見学のお礼として地元住民などに手渡した」ことが、そんなにいけないことでしょうか?
市教委は「保護者の許諾や校長の確認がないまま」手渡したから処分したとのことですが、それはよくあることではないでしょうか?
修学旅行や体験学習などでお世話になった方へ、後日子どもたちの感想文が送られてきたというのはよく聞く話ですが、それらは全て保護者や校長の許諾を得た上でのことなのでしょうか?
少なくとも私自身は、子育て中、学校側からそんな許諾を求められた記憶はありません。

不思議その2.
「市民グループのブログに児童の感想文が掲載された」ことが、そんなにいけないことでしょうか?
名前も住所も写真も、個人情報にあたるものは何もありません。ただ社会科見学についての生き生きとした感想文が綴られているだけです。

それぞれが体感したこと、自然の面白さだったり、防空壕の不気味さだったり、川原のおじさんたちの故郷への想いだったり・・そういうことが真っ直ぐ伝わってくる感想文でした。余計な先入観で身構えない子どもだからこそ、見るもの聞くもの素直に受け止め吸収できるのだと感じました。各クラス2編ずつの計6編だけですが、ブログを通して多くの人に読んでもらい、社会科見学の素晴らしい事例として知ってほしかった。ただ、それだけです。
もしもその学校の先生方や保護者の目にとまっても、喜んでいただけるものと思っていました。

ところが、このブログをアップしたその日に、その小学校の校長先生から直接お電話があったのです。そのブログ記事のページを「閉じて欲しい」と。
理由は個人情報だからと。名前を出していなくても、子どもや先生が了解していても、親の了解が取れていないからダメだとのことでした。

「わかりました。ではいったん閉じますから6人の親御さんに確認して頂けないでしょうか。了解頂ける方がおられましたら、その方のお子さんの作文だけ、あらためて公開させてください」とお願いしましたが、校長先生の許可はいただけませんでした。

つまり、「親の了解」は言い訳で、校長先生自身が公開させたくなかったのです。なぜなのか理由を尋ねても説明はいただけませんでした。

不思議その3.
それにしても、校長先生はどうしてそんなに早く、この記事をご覧になったのでしょう?
もしや「石木川まもり隊」のフォロワー?そんなはずはありませんから、きっと誰かが知らせてきたのでしょう。その誰かも誰かによって知らされた。そして・・もとを辿れば、石木ダム反対運動を常に監視している誰かさん?に行き着くのでしょうか。

結局、校長先生も犠牲者かもしれません。あの社会科見学が実施できたのは、それまでの校長の理解があったからでしょう。理解というか、問題視されるとは思っていなかった?
しかし、マスコミ等で報道されると、高い評価が寄せられる一方で、市教委のお叱りを受け、校長自身が一番驚いたのかもしれませんね。

不思議その4.
では、なぜ、市教委はこの程度のことで処分まで発令したのでしょう?しかも、何か月も後になって。
社会科見学は昨年11月で、ブログへの掲載は12月はじめで、処分は今年の7月だったようです。

時期の問題はわかりませんが、処分の理由は、代理人弁護士が語っているように、「処分は県の公共事業を取り扱ったことによる報復的なもの」なのだとしたら、それは問題ですね。

県の公共事業ならばこそ、県民の利益のためになされるべきで、県民みんなで考えるのは当然です。
しかも、ダムのように50年も100年も存続する事業においては、次世代を担う子どもたちの声にも耳を傾けるべきです。考えるための材料や機会を与えようとした教師を処分するなど、あってはならないことです。

子どもたちが社会問題に関心を持つことを許さないそんな教育行政が続くかぎり、若者の投票率などいつまでたっても上がるはずはありません。

市教委は、今一度、教育基本法第16条「教育は、不当な支配に服することなく・・・行われるべきものであり、教育行政は・・・公正かつ適正に行われなければならない」を思い起こし、処分を撤回してほしいと思います。

最後に、皆さんからの不思議「先生は、なぜ川原住民でもないあなたに感想文を渡したの?」にお答えします。

私も不思議でしたよ。
川棚での集会終了後、初めて出会った先生に、いきなり渡されて。え?なんで私に?と思いました。

先生は、社会科見学について伝える石木川まもり隊のブログ記事を見ていたそうです。
https://ishikigawa.jp/date/2020/11/13/
そこには、このように記していました。

子どもたちの心にはどんな言葉や景色が残ったでしょう?
今回の社会科見学を計画してくださった先生や、その計画を実現してくださった校長先生や6学年の先生方の勇気に心から拍手を送りたいと思います。

それで、実際に見てほしい、読んで欲しいと思われたのでしょう。
また、まもり隊のホームページを見て事前学習の参考にもさせていただきましたから、ともおっしゃっていました。

それは何故かというと、修学旅行でも体験学習でも現地に行く前に事前学習をしますよね。
先生もはじめに県の河川課や佐世保市水道局に電話して、石木ダムについて子どもたちに説明して頂けないかとお願いしたそうです。
が、どちらからも断られ、仕方なく、石木ダムの目的や概要などを県のホームページから学び、反対派の見方は石木川まもり隊のホームページから学んだのだそうです。(少しでも何らかのお役に立っていたなら幸いです)

さて、審査請求は先月20日に受理され、「今後、公開での審査が行われる見込み」とのこと。
その成り行きを関心を持って見守っていきたいと思います。

オンライン署名にぜひご協力ください!

石木ダム建設は説明不足。長崎県は一度立ち止まり、
公開討論会を開いてください。(Change.org)

ほかにも、こうばるを守るためやっていただけることがあります。

→あなたにできること

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です