3月23日、川棚公会堂で開かれた「清流をまもる 未来をまもる」集会は3時間半に及ぶ長丁場でしたが、実に中身の濃い有意義なものでした。
加藤登紀子さんのメッセージに始まって、地元からの挨拶、第二部には国会議員3名、長崎県議、佐世保市議、川棚町議各1名による報告など、いずれも石木ダム問題解決に向けて頑張っている方々の熱意が伝わってきて、たくさんの元気をいただきました。
さて、メインは第1部の講演会です。
河川工学が専門の今本博健さん(京都大学名誉教授)、ダム建設に詳しい宮本博司さん(元国土交通省河川局防災課長)、淡水魚が専門の細谷和海さん(近畿大学名誉教授)、この3人の講師のお話は、いずれも貴重な内容で、ぜひ多くの方に聴いていただきたいと思います。
後日、YouTubeで公開しますが、まずは、簡単にまとめてみましたので、予告編のつもりでご覧いただければ幸いです。
講演1:今本先生のお話(講演資料:今本博健氏)をざっくりまとめると、
1.石木ダム計画の水位計算がおかしい。
2.何故なら、水位計算に必要な粗度係数(河川の側面や底の粗さを表す値)の設定がおかしいから。
3.粗度係数が低下すれば水位は下がる。川棚川では1990年7月洪水のあと河川改修が実施されており、粗度係数は設定時より低下しているはずなのに修正されていない。粗度係数が設定値の0.8倍以下なら石木ダムは役に立たない。
4.仮に粗度係数が設定値のままでも、温暖化に伴う気候変動により、洪水の規模は増大する。気温が2℃上がれば、流量は1.2倍になると予測されている。そのときは石木ダムがあっても溢れ、「無用の長物」となる。
講演2:宮本氏のお話(講演資料:宮本博司氏)をざっくりまとめると、
1.ダムは極めて限定的な治水対策である。
2.石木ダム計画の杜撰さにビックリ!
a. 計画雨量の算出がおかしい。
通常はこのように、流域の3地点の平均値を求めるのだが、なぜか長崎県は、遠く離れた佐世保市の1地点の雨量の0.94倍に設定。
それが妥当でないのは1967年の降水量を見れば明らか。佐世保の観測所の付近は150~200mmなのに、川棚では50~150mmだった。なぜ佐世保の0.94倍に拘るのか???
b. 洪水流出モデルの検証ができていない。
県の資料では石木ダムと山道橋の洪水ピークが同時刻となっているが、こんなことはありえない。なぜなら、到達距離が全く違うから。洪水到達時刻がずれると、石木ダムの効果は小さくなる。その結果、計画高水流量は1130㎥/sを超え、石木ダムがあっても溢れてしまう。
c.そもそも1/100の洪水流量は山道橋まで流れてこない。なぜなら、石木川合流地点より上流の河川整備計画は1/30なので、1/100規模の降雨があれば、上流で溢れてしまうから。まとめとして宮本氏が言われたことは、
●この治水計画はあまりにも杜撰!
●雨量観測も流量観測もやっていない。
●そのことにより雨量と流量の検証がされていない。
絵に描いた餅であり、こんな計画で立ち退きを要求してはダメ!
講演3:細谷先生のお話(講演資料:細谷和海氏)をざっくりまとめると、
石木川を含む川棚川水系は、シーボルトが世界に紹介した日本の淡水魚の模式産地の可能性がある。
シーボルトとビュルゲルが日本から持ち帰った魚類標本は1465個体もあった。
その模式標本の産地はどこか?長崎周辺と琵琶湖淀川周辺と思われる。
長崎周辺の具体的な川としては佐賀県の塩田川水系と長崎県の川棚川水系の可能性が高い。
中でも川棚川の支流の石木川をタイプ産地とするジャーナリスト(新村安雄)もいる。
シーボルトの川を標榜するなら、いま棲息しているシーボルトコレクションにある魚をトポタイプ(現存個体)として保全する必要がある。
淡水魚を保護するためには、河川の上・下流、本流・氾濫原、表層・浸透層をつなぐ回遊経路を保全する必要がある。
分類学の難しい話はよく分りませんでしたが、河川を含む里山の原風景を保存することが生物の多様性に繋がることは理解できました。
200年前のシーボルト時代の川の姿を留めている貴重な石木川にダムを造ることは、やはりあってはならないことではないでしょうか。
長崎県は、3人の講師の方々の忠告に真摯に耳を傾け、まずは治水計画を見直すべきです。
もうすぐ新年度。2024年度は石木ダム再評価の年です。今度こそ、結論有りきではない、真の評価ができるよう、しっかり取り組んでいただきたいと、心から願っています。