昨日の佐世保市議会が採択した「石木ダム建設事業に対する事業認定の早期進展を求める意見書」について、二人の議員が反対討論をされました。
たいへんわかりやすくて心のこもった討論でした。
その原稿をいただきましたので、ご本人の許可を得て、公開します。
(順番は討論の順)
1.速見議員の討論
意見書案第16号 石木ダム建設事業に対する事業認定の早期進展を求める意見書について反対の討論をいたします。
石木ダム建設事業を巡り、37年間経過した現在においても様々な問題が残されたまま推移してきました。
1972年(昭和47年)7月29日、長崎県は地質調査を行うにあたって、「地質調査はあくまで石木川の河川開発調査」であってダム建設につらがらない、「地元の人が一人でも反対するならダムは造りません」「調査だけでもさせていただけないか」と長崎県が説明し、当時の川棚町長が土下座までして頼まれたため、地元の皆さんは、地質調査だけということで、「地元の同意が得なければ独断専行はしない、強制執行等の行為に出た場合は総力を挙げて阻止行動をとる」等の覚書を当時の長崎県土木部長の立ち会いのもとで交わされ、同意された訳であります。
長崎県は、2年後の1974年(昭和49年)地質調査が完了するや否や「国の石木ダム建設予算がついた」と発表しました。驚いた地元の皆さんは県庁に出向き、当時の知事へ面会を求めた際、知事は「一人でも反対する人がいればダムは造れないし、造らない」と約束しました。
しかし、1982年(昭和57年)4月2日、当時の知事は土地収用法第11条に基づく立ち入り調査を公告、川棚町もこれを受理しました。
同年5月21日10時10分、地元住民の反対を押し切って、ついに県警機動隊を導入、延べ7日間にわたり400名の機動隊を動員し、強制測量を行った訳であります。この行為は、長崎県が残した最大の汚点と言わざるを得ません。
石木ダム建設問題の解決を遠ざけた背景には、この強制測量が今日に至っても根深く存在している中、事態は硬直状態が続いているのが現状であります。
その後、27年間大きな動きはなかったものの、2009年11月6日、長崎県は、反対地権者との話し合いを行うためと説明し、土地収用法に基づく「事前説明会」行い、同年11月9日に事業認定申請を国土交通省九州整備局に提出しました。長崎県が言うように事業認定が許可されたら話し合いの場が持てると言っておりますが、その話し合いはあくまでも「家屋移転補償費や生活再建策の具体的な話し合いがなされる」と県が言っている訳であります。
反対地権者は、「家屋移転補償費や生活再建策の話し合い」ではなく、「ダム建設の必要性」「ダムに代わる方法について他にないか」などについてお互いの有識者などを入れて公開の場で話し合いをしようと再三要請をしてきているにもかかわらず、長崎県は、話し合いに全く応じないと言っています。県は、反対地権者の声にもっと耳を傾けるべきです。
一昨年の3月24日、長崎県は付け替え道路の工事に着手しました。その説明で長崎県は「ダム建設と付け替え道路の工事とは別ですから工事だけはさせて下さい」と言ってきましたが、付け替え道路買収用地の所有者には反対地権者がいる訳でありますから、地権者の同意がない限りは付け替え道路もできるはずがありません。現在、中断していますが、反対地権者が訴えている話し合いに応じなければ、今後も付け替え道路工事は中断したままになるのは明白です。
政権が交代し、国から、「ダムによらない治水・利水の見直しの再検証」をするよう長崎県は求められました。その際、地元反対地権者は、地元住民と学識経験者を再検証の場に参加させるよう求めましたが、この要請についても地元の声に耳を傾けようとせず、これも無視されました。
長崎県と佐世保市長・川棚町長・波佐見町長の4者で行われた検討の場においては、石木ダム事業を継続とし国に報告しました。
国の第22回「今後の治水対策の在り方に関する有識者会議」は県の方針を了承しました。しかし、地元には事業に反対する声が根強くあることから、有識者会議の中川座長は「石木ダムに関しては、事業に対して様々な意見があることに鑑み、地域の方々の理解が得られるよう努力することを希望する」と付帯意見が付けられたことはご承知の通りです。
次に、私はこれまで、水需要予測においても佐世保市議会でやり取りを行ってまいりました。
1975年、当初の石木ダム建設計画で長崎県は、針尾工業団地のへの配水と、佐世保市の人口増加に伴う水源確保と言ってきました。
1975年の佐世保市の水需要予測は「現在1日最大給水量9万3,910トンですが10年後の1985年には16万1,400トン必要になります」と言い、平成19年度においての水需要予測での1日最大給水量は平成23年度においては10万5,730トンが必要、平成29年度には11万1,410トンが必要と言ってきました。
しかし、人口は減少、水需要も減少、平成23年度1日最大給水量の実績は8万240トン、その差が2万5,490トン、1日平均給水量の実績も7万1,153トンに減少傾向にあります。
佐世保市、市議会もそこをしっかり見極めなければなりません。
石木ダムありきを見直す必要があります。
今年度は水道施設整備事業の評価についての年度に当たります。
昨年7月7日には厚労省健康局水道課長から水道施設整備の評価の実施について通知がなされ、佐世保市水道局とされても鋭意努力はなされていると思われますが、これまでの実績は消すことはできませんし、今後の大きな課題といえます。急がなければなりません。
次に、石木ダム建設事業に同意されていない13世帯の皆さんは、「私たちの率直な気持ちに耳を傾けてほしい、私たちが訴えている話し合いに応じてほしい、しかし、私たちの同意がないままダム建設を強行するならば、豊かな自然を子や孫へ残すため、命をかけて阻止する覚悟はできています。1日も早く石木ダム建設の白紙撤回を願っています」と自分たちの思いを訴えられています。
今年、6月11日付で国土交通省水管理・国土保全局長からの通知にもありますように、先ほど述べました有識者会議の付帯意見の重みをしっかり受け止める必要があります。
まず、やるべきことは地元地権者が求めている話し合いを最優先させることが必要ではないでしょうか?石木ダム建設事業は、今まさに行き詰っています。原点に返ることが求められています。
従って、土地収用法に基づき強制収用が可能となる「石木ダム建設事業に対する事業認定の早期進展を求める意見書」に反対であります。
2.山下議員の討論
石木ダム建設のために事業認定早期進展を求める意見書の提出に大反対です。
それがどういう意味をもつのか、考えてのことでしょうか。
石木反対地権者の家土地財産を土地収用法で強制的にとりあげることを迫るということです。中村県知事はそうすると県議会で態度表明したし、現に認定庁に働きかけを行いました。佐世保市議会もまた、こんな野蛮なことをいっしょに行うというのでしょうか。
皆さん、石木川原の人たち、どんな悪いことをしたというのでしょうか。
故郷に住み続け、先祖の墓を守り、子や孫に美しい故郷を継承させたい、だから踏ん張って農業を続け棚田も守り、地域を離れることなく、13世帯71人の家族構成を守って半世紀の途方もなく長い間がんばってこられました。大好きだった地域の仲間を分断させられ、権力によるウソや暴力や圧力に耐えながらです。
なぜ13世帯71人なのか、3世代いっしょ、一番多いところで4世代いっしょなのです。そこではお年寄りを敬い、子どもを地域全体で大切に守り、それこそ昔からの日本良き伝統の家族のあり方がそこにはあるではありませんか。そんな人たちを力づくで追い出してどうしようというのですか。
相手を思いやる気持ちを大事にしようという徳育宣言を行った佐世保市議会がやるべきことは、県知事に対し、そんなひどいことはやめなさい、事業認定申請は撤回しなさいとと諭してやることではないでしょうか。
委員長、特別委員会の皆さん、ほんとうに石木ダム建設を促進したいのなら、避けて通れない、すべきことがあります。佐世保市水道局に対して、再評価委員会開催を実現することです。補助金を継続して出してくれるはずの厚労省からの通知のとおりに、再評価委員会開催しなさい、そうしないと補助金打ち切られてしまいますよ、再評価委員会設置要綱どうなったのですか、再評価委員の公募選出はどうなっているのですか、もう再評価委員会に提出すべき水需要予測など資料は整ったのですか。もう時間はありませんよ。5年前の再評価委員会はもうこの時期始まっているのですよとお話しすることではないでしょうか。
今、水道局は頭抱え込んでおられます。再評価委員会開催は避けて通れません。すでに開催準備に着手したとも言っておられました。国の補助金なしに石木ダム建設はすすめることはできないからです。
さりとて、日程など、いまだ沈黙のままです。平成19年度の破たん済みの水需要予測値にとって代わる、新しい水需要予測値をつくることができないからです。下がったままの数値を使用したら、給水実績が下がり続けなのにどうして新しい水源が必要なのか、ましてや日量4万トンものダムなど必要ではないと一蹴されることは明白です。
再評価委員を回避することもできない、さりとてすすむこともできない、まさに立ち往生なのです。
お考えください。ダムは必要ではないことが第3者機関によって明らかにされようとしているのです。その時に、用地取得のために土地収用法という伝家の宝刀抜いて、しかも躊躇している認定庁に向かってその進展を迫るという、今回の意見書提出が、どんなに深刻な矛盾に満ちていることか、ご理解いただきたいと思います。
行政が問題に直面した時、それこそ、議会こそが、問題打開策を提示して行政を手助けすべきと思います。今こそ議会が引導を渡してやるべきです。その苦悩から解放すべきです。一番良いのは、市長が決断してやることです。その市長に意見迫れるのは議会です。
無理して、一滴の水を使用することのなかった、したがって厖大な税金の無駄遣いに終わったダムはもうすでにいくつも生まれています。
幸か不幸か、ダム本体工事着工は来年からということで、確かにもうすでに136億円事業費使ったということはありますが全体工事費530億ということを考えると今の時点で引き返せるというのは、まだましです。
今こそ本当の意味の議会の役割を発揮しようではありませんか。以上問題提起を含めた反対討論を終わります。